鍾乳洞のような暗がりの中に、地蔵堂に似た小さな建物が六棟、横一列に並んで建っていました。
それぞれのお堂には、私のいる洞窟の入り口から木の橋が架けられていて、ひとつひとつの橋の欄干に燈された何百本の蝋燭(ろうそく)が、陽炎のようにゆらゆらと、風もなくひとりでに揺れていました。
私は橋を渡って、一番右端にあるお堂の障子の戸を開きました。
お堂の中には、一人の男性が、経机(きょうづくえ)に向かって胡座(あぐら)をかいていました。
蝋燭の灯りに照らし出されたその顔は、私が若いころに亡くなった伯父でした。
「…おっちゃん。なにしとん?」
筆を手にした伯父は私のほうを見ず、経机からはみ出した長い和紙に、無言で般若心経を書き写していました。
「隣の奴は、もう七百年もここにおる」
伯父が呟きました。
ここに来たときから伯父が書き続けている写経の紙が、部屋の床が埋もれるほど、長いトグロを巻いていました。
「どうやったら、ここから出れるん?」
私が訊ねると、伯父は写経の手を止めて、髭の伸びた顎(おとがい)を天井の梁(はり)に向けました。
「おまえが、わしの代わりになったらええんや」
蝋燭の油で黒光りした梁の真ん中には、輪っかになった太い麻縄が一本、吊るされていました。
私は台に登って、麻縄の輪に自分の首を掛けました。
「やめとけ。おまえもわしのようになりたいんか?」
伯父は初めて、私に顔を向けました。
その言葉に我に返った私は、途端に恐ろしくなって、お堂を飛び出しました。
伯父さんは、今もあそこで…