ガチャガチャ
ガチャガチャガチャガチャ
ガチャガチャガチャガチャガチャ
だーーーーーー!!!!
うっるせえな!!!朝っぱらから!!!
朝とはいえ、差し込む光量に限りがある牢内の、
闇に佇む鉄格子の扉が、何やら揺れて軋んでいるような音がする。
気がする。
「……ねぇ~まだぁ~?」
ガチャ音の合間の艶かしい女声に、
オレ心はにわかにトキメキ……
いや、今のオレにハツはない。
気のせいだろう。
「……こんな奴に『さいごのカギ』を持たすから」
今度は力強い女の声。
オレの好物のくっころ系アレだ。
「デブゥ (謝罪」
不快な㌘100円肉声は、意識から即座に遠ざけた。
「ねぇ~~どうすんの~?もうよくなーい??」
「鍵までかかっているのだ、宝箱がある可能性は高いぞ?
どうする、勇者」
「デブゥ(反省」
不愉快な擬音に紛れた単語をオレは聞き逃さなかった!
勇者っつったぞおい!
サイモン起きろ!勇者来たぞ!!
しかしへんじはなかった
ただのしかばねのようだ
知ってるよバカ!!
どうでも良いときゃ延々語りやがって、
肝心なときはうんともすんとも言いやがらねぇ!
「わ、わかったよ!僕が何とかする……みんな下がって」
ズサっという床を擦る音の後、一瞬の静寂と、
謎の緊張感が場を包む――
何とかストラッシュ!!!
みたいな、版権がうるさそうな掛け声が、
ピー音と摩擦音を轟音に変える!!!
鉄格子の扉が蝶番からぶち折れて床に転がり、
ぐわらんぐらわんと波打つ格子の反響が狭い独房に響き渡る。
オレは突然の暴挙に肝を冷やした。
いや、オレにはレバーも無いから気のせいだ。
爆音の前の静寂よりも長い静けさの中でオレは思った。
勇者君は多分『脳筋バカ』なんだろう。
毎朝目覚まし代わりにアンタは勇者だとか、
勇敢に育てたわ、とか耳元で囁かれ続けて
自分もその気になっちゃって、
母ちゃんに手を引かれて王様に会いに行ったら
勢いで勇者とか自称して後に引けなくなった、
『痛い子』なんだろう……なんだろう、眼窩から汗が。
しかし、暗がりから現れた青年は、
冠になんかの玉を嵌め、真っ青な鎧に身を固めた
『おお勇者よ!よくぞ参った!』という
威厳めいたモノを若いながらに携えていた。
額の玉もじっちゃんの四星球に見えてくるから不思議だ。
勇者が自称でいいのか分からんが、
もうこの子でいいんじゃないか??
おバカだけど、将来性はありそうだぞ。
オレが言うのもアレだが。
「すっご~~~いトンヌラ~! やるじゃーん」
急に親近感が湧いた。
おい、親。
『ふんまんやるかたない』オレを他所に、
一行はゾロゾロと一列縦隊で入ってくる。
そして渋滞していた。
「なんもなくな~い?」
勇者トンヌラの肩口から、ひょこっと姿を見せた、
トロい口調の女は、
僧侶のいでたち、
僧侶の杖を持った、
ムチムチボディコンタイツボンレスハムの、
ただの変態だった。
前掛けどこで落としてきたんだお前。
「ふむ……白骨以外は何もないようだな」
僧侶の反対側から、ヌッと出てきた大柄な女は、
立派な剣と盾、
高そうな羽兜、
刺さりそうな肩パット、
いかにも女戦士風!!
の、鎧だけがビキニの痴女だった。
一番守るべきはそこだろ。
「デブゥ(入室)」
三人の後ろでチョロチョロしているピエロ調チビデブ男は、
帽子のボンボリを揺らしながら右往左往している。
顔がうるさい。
「も~~~!ウロウロしないでよ!!うっとおしいなぁ~~~」
「なぜこんなのを連れてきたんだ?? こいつが『さいごのカギ』を
お手玉で無くさなければ、こんな事には……」
「いやぁ……遊び人でレベル上げたら
悟り開いて賢者になれるって……ウル技で見たから……」
トンヌラよ。
お前それ、『賢者タイム』かなんかと勘違いしてねぇか?
遊び人は何年経っても遊び人だぞ。オレの経験から言わせてもらうと。
それはさておき、
コイツは、ちょっとおつむは弱そうだが、
見た目は立派な勇者だし悪人でもなさそうだ。
勇者のバーゲンみたいになってるが、サイモンの剣、
こいつに渡してしまって良いんじゃないか??
そんな迷いを察したのか、
トンヌラがオレの輝かしい肢体の前に立ち、
何やらぶつぶつ話し始めた。
「へんじがない……ただのしかばねみたいだ」
見りゃわかんだろうが!!
システムログを読むんじゃねえよ!!!!
ダメだこの子!!
この『かしこさ』で、ベットの下の剣に気づく事が出来るのか??
何とかして伝える方法を、次話までに考えないといけない事に、
不安しかないオレだった。
続く