……思い
つかん!!!
文字通り手も足も出ない骨身に何が出来るってんだ??
「ねぇ~~なんもないし早くでようよ~~カビ臭いし~~」
「だね……勇者、向こうにも部屋があったみたいだから、
あっちも調べてみるかい?」
「デブゥ(同意)」
いや、お前は勇者じゃないでぶ。
4人パーティーの1枠を埋める意味が分からない遊び人が、
隠された剣に気づけるとは思えない。
せめて盗賊なら良かったが、他の3人に期待するしか……
「そうだね……隣もみてみようか」
スッと振り返って、独房を出ようとする勇者の立派なマントを、
ひっ掴む勢いでオレは叫んだ。
つもりになった。
ちょ、マテヨ!!!
なんか大事な剣があんだって!!!!
ベットの下だ!!!ちゃんと調べろよ!!!!
音は空気の振動だ。
肺も声帯もないオレの叫びは音にならない。
何も震わせる事ができないんだ。
思いだけでは何も届かない!!!
そもそもオレは今まで何も伝えてこようとはしなかった。
言葉を話せた前世では、
親とも兄弟とも、クラスメートや教師とも、
コンビニ店員とでさえ、
まともに話してこなかったのだ。
それでも叫んだ。
無駄と知りながら。
遠ざかる靴音と、
隣の牢をストラッシュする気配を感じながら、
形にならない焦燥と、音にならない衝動を、
一つの何かに束ねて、無言の叫びを繰り返した。
何度も何度も声にならない声を上げた。
正直どうでもいい剣だが、
空しさと切なさともどかしさで交錯した意識は、
それすらも音なくスパークして、『オレ自身』を弾き飛ばした。
オレはゆっくりと遠ざかる白骨が横たわるベッドを見下ろしながら、
勇者の後を追おうとした――
***
******
*********
――ピーーーッ ストラーッシュ!!!
ゆうしゃの こうげき!
かいしんの いちげき!
てつごうしは こわれそうだ!
「もういっちょー!!」
バッキーン!!!
ゆうしゃのけんは くだけちった!
「はぅああああああ!!!」
「あーぁ……やっちゃったぁ」
「デブゥ(嘲笑」
「どうするんだ勇者……代えの武器なんか持って来てないだろ」
「し、しまった……『どうぐぶくろ』に何か武器入ってない??」
「勇者……何を言ってるんだ? 袋に剣が入る訳ないだろ?」
「だよね~あんなのせいぜい『やくそう』とか~
『どくけしそう』とか~『まんげつそう』~とか
『大麻』くらいしか入んないわよ~」
「え……ちょ、そういう設定だったっけ……」
「デブゥ(首肯」
4人のメタな会話を見下ろしつつ浮遊するオレの意識は、
半端に傾いた格子扉の隙間からスルっと滑り込んだ。
間取りはオレの骨がある独房と大差ないが、
ベッドには何も横たわってはいない。
しっかし、こっからどうしたものか……状況は何も変わっていないが……
……ん?
……何やら部屋の中心が揺らいで見える。
何だありゃ……
……あれは……!
オレはそれを認識すると、迷う間も無く飛び込んだ。
すぐに勇者一行が来てしまう……迷う暇など……ない!!
***
ガチャガチャガチャガチャ
ガチャガチャガチャ……バキン!!!
「やった!!開いた!開いたよ!!」
「しかし……もう他の牢屋は空けられないぞ?勇者」
「そしたらその剣を貸し――」
「断る」
「デブゥ(食い気味に来たなw」
「うざぁこいつ……あれぇ?
あー!! なんか……いる~~!!」
牢内に反響する程の大声でムッチリ僧侶が右手の松明で指したのは……
――オレ!?
見えてるのか???
目を細めた半裸戦士が一歩足を前に出そうとしたのと同時に、
後ろに居た勇者が肩を止めた。
「……あれ……『さまようたましい』かな??」
どうやら見た目魂チックなモンスターの中に入り込んだらしい。
とにかくこいつの身体を借りてこいつらに剣の場所を――
「そうか?メラゴーストじゃないか、勇者」
「え~?メラゴーストはもっと明るい色でしょ~!
なんかどす黒いし~プリズランでも見た事ないよ~あんなの~」
「デブゥ(ドルマージュ!!」
「なんか~? うらぶれた人生を終えて
淀んだ魂が煮詰まったみたいな~
裏路地のドブの色してる~~~」
やっかましいわ!!!!!!!!!!!!!
続く