勇者アルヴァンと盟友カミルになにがあったか覚えてる。王家の迷宮を踏破したマメミムとアンちゃんは悲しい結末を知っている。グランゼドーラに現れた不死の魔獣を倒す方法を探そうと、エテキューブで過去世界に行くことになったマメミムに、アンちゃんは私も行くわと言ったあとで思い直してマメミムに任せてくれた。
これをしてくれるのが勇者姫アンルシアだ。
一千年前のグランゼドーラは不死の大魔王ネロドスの軍勢相手に陥落寸前だけど、日々の不安と不満の中でみんなすげー頑張ってる。沿岸に浮かぶ城は大砲でも投石器でも沈められないし、空飛ぶ魔物を倒せるのは勇者と盟友くらい。城下町まで火の海になっても絶望せずにいられたのは、それだけ勇者アルヴァンがみんなに慕われているからだ。まっすぐな正義漢で我が身を危険にさらすことを厭わない、ほんとうに勇者らしい勇者だと思う。
アルヴァンは立派な勇者だけど、たったひとつ彼にはできないことがあった。それは危険を他人に任せることだ。グランゼドーラはアルヴァンがいるから絶望しない。たぶんネロドスはそのことを知っていた。勇者アルヴァンを倒すためにグランゼドーラに侵攻してジャミラス様に画策させた。十二将のジャミラス様はどこぞの夢弁慶と違ってなかなかの陰謀家だ。なにしろ幸せの国とかジャミラスコールを必要としない。
幸せの国はともかくカミルもそのことを知っていた。彼女がしんでもなんとかなるけど、アルヴァンがしんだらみんなは絶望する。絶望は滅びだ。アルヴァンが悲しむのとみんなが絶望するのとどちらを選ぶか、カミルの答えははっきりしてた。たとえ個人的な感情があったとしても、犠牲になるならカミルがなるべきだ。だけどアルヴァンはそれを受け入れることができなかった。
一千年前の決戦は勇者と大魔王が相討ちになった。
この結末は悲劇だけど、勇者の血筋は絶えず大魔王の悲願は果たされなかったから勇者の勝ちだ。でもアルヴァンが選んだ行為は、勇者が犠牲になって勝つという結末を歴史に残しちまった。勇者が見せるのは行きて帰りし物語でなくちゃいけない。
いまのアストルティアの王族で、それを知ってるのはメギストリスの王子ラグアスだろう。お前の命を捧げろと言われてNoと言える。賢さと勇気がなければこの答えは出てこない。アンちゃんはもう少し未熟だから、いざとなれば自分の危険を顧みずに、半分くらい走ってから思い直して帰ってくる。そしてマメミムに任せてくれる。マメミムは「おけ」とか「うい」と言うだけでいい。
アルヴァンが間違えた禁術の使いかたを、一千年後にアルヴァンがアンちゃんに教えてくれて、彼女は思いとどまることができた。アルヴァンとカミルは王家の迷宮で思いを遂げることができた。グランゼドーラは救われてちょっとだけ歴史が変わった。
ヴィスタリア姫は目の前で兄さんを殺したカミルのために生きた。フェリナ姫はカミルの望みに応えて迷宮の扉を開けた。王と王妃はアルヴァンを愛するからこそカミルを憎まざるを得なかった。ひとびとはアルヴァンがしんで絶望するかわりに、アルヴァンが大魔王を倒してくれたから絶望しないでいてくれた。グランベリーのジャムはいまでもこの国に伝わっている。
一千年前の物語。ここにはだれも悪いひとなんていない。大魔王ネロドスが強かったことと、ジャミラス様が狡猾だったことに文句を言えばいい。ネロドスはアルヴァンが、ジャミラス様はカミルが倒してくれた。
歴史は書き換わり、勇者の聖壇に書かれている記録が変わっていた。王家の迷宮で、エメリヤ王妃の言葉が変わっていた。たぶんアルヴァンとカミルはみんなの誤解なんて気にしない。けれど彼らのために心を尽くしたヴィスタリア姫とフェリナ姫は、一千年後のグランゼドーラに並ぶ勇者と盟友の像を見れば心からよろこんでくれるだろう。
Ver.4は、時を超えて世界をちょっぴりよいものに変えることができる。
時の精霊を自称するキュルルも時渡りに呪われてるミムメモも、たぶんちょっとだけかんちがいをしてる。未来を変えようとか歴史を変えようとか思っても変えられない。でもいまをなんとかしようとすれば世界すら変えることができる。必要なのは賢さと勇気と、もうひとつある。
アンちゃんはアルヴァンと同じ禁術を使おうとして、自分にもしものことがあったら王家の迷宮に連れていってねと言った。マメミムは「そんときはつきあうよ」と言うだろう。秘術は勇者と盟友の二人で使うものだと教えられて、アンちゃんはマメミムに呼びかけた。マメミムは「もちろんつきあうよ」と言うだろう。
マメミムはほんとのことしか言わないし、アンちゃんはマメミムのことを信じてくれる。それで世界すら変えることができるんだ。