黒衣の剣士の眉間のしわが気になってしかたない。
以下たぶんVer.4全編を通じてのネタバレになるのでご注意を。
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優秀な時渡りの術師で強い戦士でもあって、人柄もよくて誰にでも慕われて、為政者としてもどうやら優秀な人物だった。彼があまりにも優秀だったせいで、兄や友人が「エテーネの歪み」に踊らされて自分を疑っていたことには気づかず、それがエテーネやリンジャハルを滅ぼす事件の遠因にもなった。
彼は優秀だったけど、ひとが自分に嫉視を向けることには気づかなかった。たんに気づきたくなかったのかもしれないが、彼がもっと他人に配慮していたら事態は避けられたかもしれぬ。そう考えかけたけど、それってヘンじゃないかと思う。
疑われるから、もっと誤解を与えない言動をしろということか。優秀なひとになんでも背負わせる発想がもうおかしいのではないか。彼はまじめだからきっと背負ってしまうだろう。それでなんとかなってしまえば、もっと要求が大きくなる。眉間のしわが深くなる。
そのうえで思う。
アストルティアには立派なひとがたくさんいる。村王クリフゲーンとかナブレット団長とかメルー公とか、ワールドクラスのいいおとこたちに比べたら、彼は立派なひとだけどそこまで完全無欠じゃない。彼らはすべてを自分ひとりで背負い込まないことができた。それが彼にはできないことを知っていたのは、従者ファラスだったろう。
彼はすごくいいひとで、みんながしあわせに暮らしてさえくれれば、それでいいと思っていただけだ。彼「も」しあわせに暮らしてくれることが、ファラスの望みであることには気づかないのが、彼らしいといえばらしい。ふと、誰かみたいだなあとマメミムは思い出す。
リンジャーラやマローネは、そこまで気がついてはいなかっただろう。だって彼らと一緒にすごしているときの彼は、眉間にしわなんて寄せなかったから。ほんとうにこころが許せる時間を、彼らはもたらすことができたから。
時の牢獄で最後に別れるせつなに、すこしだけ表情がゆるむのを見た。
それで思った。彼の眉間のしわって、たぶんリンジャハルに災いが訪れたあたりから刻まれて、そのまま消えなくなったんじゃないか。友人とふたりで時のはざまに囚われて、満足はあっても後悔もあったから、彼は「エテーネの歪み」にそそのかされてしまう。眉間のしわが消えなくなる。
彼のむかしの姿があるはずだ。そこには彼のほんとの顔があるはずだ。そう思って、むかしの肖像画を手に入れたら、そこには彼のほんとうの顔があった。気のやさしい青年にしか見えない顔だ。抱えられている赤子が、事件のときまでそんなに成長していないのだから、肖像画の彼が黒衣の剣士になるまでに、そんなに時はすぎていない。
どれほどの苦悩を、彼は抱えてしまったのだろうなあと思う。
彼が犯した罪が消えることはない。疑いのままに「エテーネの歪み」の掌中に落ちた彼が、世界にもたらした混乱は多くの犠牲を出したことだろう。それをおいても、兄を刺しころした事実が消えることはない。だから彼は救われることがないし、救われてはいけない。
彼は後悔のなかにあったほんのちょっぴりの心残りを、ちいさな昇降機のなかで除くことができた。最後に自分がするべき役目を、果たすことができた。彼はもといた場所に戻るだけだ。そこにはもう後悔はなくなって、満足だけが残っている。もう会うことはできないけれど、彼の眉間のしわは消えたんじゃないかなあと思う。
これがVer.4でマメミムが書きたかった、最後のことだ。
最後までわからなかったことが、あとひとつ。海洋都市リンジャハルの名産はカニだったというが、現リンジャハルで海岸に糸を垂らしてもカニがかかることはない。ヒストリカイズフレンドが召喚するカニがガニラスみたいなやつだったから、セレドットの洞窟にいる淡水ガニだったのかなあとか思っていたのだが、遺跡に隠されていた模型を見て、リンジャハルのカニがズワイガニみたいな海のカニだったことを知る。
いつか、この謎を解くことができるのだろうか。リンジャーラとその友人たちのことを調べてはいちいち感動しているヒストリカイズフレンドに、いちど大エテ島とパドレア邸をおとずれてほしいなあとけっこうまじめに考えている。