いいやつなのはわかるけど決定的に残念感がただよう。それがファラザードのシシャドノことユシュカへの第一印象だったけど、しばらく同行するにつれて、こいつはいいやつなのはわかるけど決定的に残念感がただようやつだと思うようになった。つまり第一印象と変わんない。だいたいひとのことをしもべとかてしたとか呼ぶやつにろくなやつはいないのだ。
ちなみにうちのコンシェルジュはロデム、てした、ひゃくしょう、かちくの4人いる。
このユシュカという男、通りすがりの旅人のふりをしていたはずなのに、ごろつき相手に身分を明かしてこいつ大丈夫かよと思ったら、貴族社会のゼクレスにぼさぼさ髪と無精髭でやってくる。せっかく「素材はわるくない」と目をかけてくれたリンベリィの招待をすっぽかす。アスバルを焚きつけると王妃エルガドーラからは門前払いどころか敵視されている。
バルディスタでも話を聞いてもらえずに、ベルトロの助言を理解しなかったのかファラザード産の紅茶がどうとかわけのわからないことを言い出すしまつ。おまえは子供なんだから子供たちと存分に遊んだ上で、どうもガキどもには弱いとかいえばヴァレリアも少しは態度を和らげてくれたろう。選定の儀に魔王たちを呼ぶという目的はかなったけれど、シシャドノとしては失敗しまくりだ。
砂漠の国を訪れて、妄想でしかないけど事情は知れた。
新興国ファラザードで、魔界の危機を察した彼らは両国に使者を送らねばならぬと考える。重臣ナジーンは候補者を慎重に検討すると、報告しようと部屋を訪れる。空っぽの部屋には誰もおらず「ユシュカ様ならそこの窓からおでかけになりました」とカーテンが風に揺れている。
ゼクレスやバルディスタよりはマシ。現状への危機感も持ってるし発展する目もちゃんとあるのに、どうしようもなく残念感がただようのはユシュカもファラザードもおんなじだ。活気のある市場とわけへだてのない暮らしのすぐ横で、誰にも目をかけられず切り捨てられた人々が生きている。
悪意があったわけじゃない。リンベリィの招待をばっくれたように、興味がないから知らないだけだ。シシカバブはユシュカにそっくりな親分肌のいいやつで、ぼさぼさ髪に無精髭もおそろいだ。誰よりも気があいそうなコイツの境遇に気づけたのはさいわいだけど、いままで切り捨てられたシシカバブがたくさんいたのだろうと思わせる。
ナジーンの忠告を聞き流して、親しい連中と夜を明かす。
三国を訪れるたびに魔界だめだなあと思わせる、それが魔界の現状だ。どんな国にもだめなところはあるけれど、よりにもよって三人の魔王の器が小さすぎる。選ばれた者たちがそろうと大審門が開かれて、魔仙卿による選定の儀が始まるらしいが、なにもかも諦めてるアスバルと、強さも優しさも中途半端なヴァレリアと、ひとの話を聞かないユシュカが名乗りをあげる。エルガドーラやベルトロやナジーンの苦労が知れる。ゼクレスの空き屋敷にあいつがいたら、もう少しふさわしいんじゃないかと思わせる。
魔界という世界で、魔族という種族が暮らしてることが知れる。魔瘴に襲われる暮らしの厳しさはわかるけど、オーガは獣にならなかったし竜族はまじめであり続けた。厳しい現実を理由にしてだめなふるまいにおよんでいい理由はない。ゼクレスの魔王がラグアスのように王としての自覚があれば、バルディスタの魔王がクリフゲーンのように優しさと強さを備えていれば、ファラザードの魔王が「英雄はすべてを救う」の言葉を知っていれば、もう少し魔界は変わっていただろう。
とりあえずユシュカ。
子供と話をするときにかがんで相手の目線に降りることができるのに、一国のシシャドノが正装せずぼさぼさの髪と無精髭で、山賊めいたベストを羽織っているそのセンスをなんとかすることから始めよう。とりあえずそのかっこ悪いどくろの首かざりはシシカバブにでもプレゼントしてあげなさい。
ゼクレスにとってお前はアスバルを不良の道に誘おうとしてる悪友でしかないし、バルディスタにとってお前は悲願のアストルティア侵攻を邪魔したテロリストでしかない。お前がシシャドノをすること自体がファラザードのハンデなのに、その自覚もなく相手に譲歩もなければこいつなに言ってんだとしか思われない。
だめな連中だから滅べばいいとは思わない。頼まれたら「はい」と答えるマメミムは、それでアンルシアの勇者様になってナドラガンドの解放者になってプクレットの名誉審査員になった。シシャドノに必要なのは、へんにかっこつけないでふかふかな衣装を着ることだと思う。
いまのところ望み薄な、魔界の状況について考える。