ジャリムバハから兵を退いたヴァレリアを追撃してバルディスタに攻め込もう。このばかな作戦を聞いたマメミムはゴーラに飛んでみると、ころしあいを避けて裏から入れないか試してみたけどムリだった。いちばん弱いバルディスタを二国でふくろだたきにするのは決まってる。ファラザードのひとり勝ちは許さない。タダでは乗ってこないからゼクレスは捨て駒の雑兵を送り込む。ファラザードは乗せられる。
これでひとがごろごろしんでく未来が決定した。
戦争が悪いというつもりはない。譲れない利害が衝突に至ることがある。ネロドスは犠牲の末にグランゼドーラを陥落寸前まで追い詰めたし、マデサゴーラはトーマを倒して緋石のひとつを破壊した。三国の激突はそうではない。ヴァレリアの自棄とユシュカの見栄に、つきあわされた兵士はしになさいというだけだ。エルガドーラが切り捨てる兵士をアスバルがみごろしにするというだけだ。
従わざるを得ない者をむだじにさせるのは最悪の暴君だ。
ナジーンにユシュカを裏切る選択肢はない。兵士たちも同様だ。いっそ血にくるった二人の魔王をこの場で殴りたおせたらいいのにと思いながら、襲いかかってくるバルディスタの兵士や隊長や将軍を、きみたちむだじにだよねと思いながらたたきのめしていく。
魔人になったアスバルのチカラですべてが終わる。多くのひとがしんだ。放心するユシュカは自分の未熟でナジーンがしんだことには気がついたけど、自分の未熟で兵士が大勢しんだことにも気がついているだろうか。いちばん悪辣なエルガドーラがいちばんマシなのは、ほかの連中がばかだったというだけだ。つきあわされてしんだ兵士たちは、いったい誰が弔ってくれるのか。
ここまで言った上で「すでに起きたことはしかたない」。
ゼクレスの裏切りも良策とはいえぬ。エルガドーラがすべきは犠牲を顧みずに二人の魔王を倒すことだったけど、ヴァレリアは生き延びてユシュカはナジーンが守り抜いた。他に道がないヴァレリアはゼクレスに突撃する。彼らをオトリにして裏から攻め込もうと知恵をまわしたのはシシカバブで、こいつはほんとうにユシュカを磨いた鏡だと思う。目を閉じてこいつの言葉を聞いてみれば、ユシュカがすべきことはたいていシシカバブが言っている。
魔導城に潜入する。正面から突撃していたヴァレリアもやってくる。魔界大戦最後の決戦も勝負がついて、三国とも失ったものばかり多すぎる不毛な戦いは終結した。ころしあいに参与したマメミムが言うことはない。魔界の天才が産んだどうぐ使いで、なかまの誰もしなない戦いくらいはできた。彼がアストルティアに逃げたのは、なかまが誰もしなないことなんて魔界では重視されないからだった。
ヴァレリアは好き勝手にあばれたあげく、弱いものから先にしんでいくバルディスタという国を残して退場した。途方にくれるベルトロがちょっぴり気の毒だけど、損な性格をしている人間が損をすればうまくいくこともある。きっとそのうちお節介なおひとよしがバルディスタを訪れることになるだろう。
アスバルはすべてを押しつけていたママが退場して、いまさらのように生き残った者たちがすべてをエルガドーラのせいにする中であとしまつをつけねばならぬ。一人勝ちしたオジャロスにも対抗しないといけないけど、積み上がった宿題は自分でかたづけなさいと言うしかない。エルガドーラが無理やり繋ぎ止めていたゼクレスを、誰かがまとめないといけないから手伝うことにはなりそうだ。
ナジーンを失ったユシュカは、戦禍を回避したはずのバザーが傷だらけの兵士をひとりでも助けたいと大わらわになってる惨状が、自分のせいだと理解しているか。これまでナジーンがしていたことを、ナジーンがユシュカにしてもらいたかったことをやってくれるだろうか。自分の国にめいわくをかけた魔王が、マイナスからふつうになれてよかったねというていどで済ませてほしくない。
厳しいとは思わない。
彼らはそのくらいばかだったけど、ばかだから滅べというつもりもない。生きていたほうがずっとよかったやつがいるけれど、代わりに誰かがしねばいいとは思わない。彼らが自分の愚かさのせいで受けた報いを、自業自得と突き放すつもりもない。きっとそのうちお節介なおひとよしが彼らを手伝うことになる。
魔界だとか魔族だとか関係なく、彼らも同じ人間だ。おおぜいの人間が意味もなくむだにしんだこと、マメミムが彼らをころしてまわったということは、忘れることも消えることもないだろう。
名のある兵も、名もなき兵も、何十人や何百人がむだにしんだのか。しんだら誰も語らない。