ちょうど3年くらい前のマメ日誌を掘り返す。
>セレドの子供たちや、アラハギーロの兵士たちが帰る方法はないのだろうかということを。
>そして気づいたヒトもいるだろう。帰る道は存在する。
故あって偽セレドから真セレドまでの旅をもっぺんしようということになり、シルルさんに誘われておべんとうをかばんに詰める。ドラクエIVにあったアイテム「おべんとう」がほしいよねとこういうときに考える。リゼロッタやフィーロやミラカたちにあいさつして、もちろん町の南にいるはだかドワーフにも声をかけてから徒歩の旅。
じぶんたちがドラクエ世界における人間の限界Lv99を超えた存在であることを忘れてはいけない。駆け出しのドワマメを助けたウデに覚えのある冒険者たちがLv28だった。セレドットの山道を抜けてローヌ樹林帯に入れば、キラーパンサーがうろついていてサイレスが襲いかかってくる。せまい道をボストロールが塞いでいたら旅はそこで終わる。
ものがなしい偽レンダーシアは好きだ。
この世界を描いたマデサゴーラの芸術には、生への渇望と、神々への憎悪というふたつのテーマがある。草木は魔界のものではなくアストルティアと等しいのに、レンダーシアには光の河や魔瘴が存在しない。女神や邪神がいなければ、本来この世界は美しいのだという思いが彼にはあったのかもしれぬ。女神の創造物を憎悪した彼は、たぶん自分が契約した邪神のこともたいして認めてない。
穀倉帯に入ればずいぶんおだやかになる。モンスターはうろついてるけれど、ここを歩きまわっても命の危険はそうそうないだろう。広大な麦畑にかかる石橋の組みかたが、アーチ構造になってないのは美術スタッフのミスだろうなと無粋なことを考える。あちこちにある立て看板の文字が共通なことを見ても、当時の解像度でそこまで気を使う意味はない。
ワルド水源の壮大な美しさに圧倒されながら、穀物輸送のためと思われる広々とした道を登る。ふと、ここの作りが樹天の里を思い出して、もしかしてここの設計をしたのは賢者シュトルケではないかと考えたがもちろんなんの確証もない。ネロドス進軍の当時三門は封鎖されてたし、樹天の里の設計者がシュトルケだという記述もないはずだ。水しぶきでくもる木道を登りながら、東の水路から内海を通じて小麦を送るすべはあるだろうかと考える。
三門から西に向かうひとはいない。打ち上げられた船たちの墓場、外界の向こうに五大陸は存在しない、ここは世界の果ての地だ。いずれグランゼドーラやアラハギーロが復興して、三門が開いてもコニウェアから西を開拓する理由はない。がいこつやバイキングソウルが徘徊して、ホークマンが襲いかかってくる浜辺を抜けてようやくココラタへ。ここにはふつうのひとが異世界を渡るただひとつの手段、グランドタイタス号が就航する。あとは船でも馬車でも使えばいい。
すくなくともサイレスやホークマンの襲撃を退けることができて、ボストロールを倒せるなら、偽セレドと真セレドを行き交うことはできるのだ。いずれセラフィやクマリスが、このことに気づき世界を繋ぐ使者になるだろうかと思う。かつてザンクローネが真メルサンディを訪れたように、グランドタイタスの客たちが偽ワルドで暮らしているように、彼らがそれぞれの世界で生きることに障壁は存在しない。
グランゼドーラから馬車に乗って真セレドへ。
今回の旅のゴールである施療院に向かう。そこにはマメミムが会いたかった「ティタ」がいる。彼女に花束をとどけることが、この日マメミムが偽世界から新世界への道を歩いた目的だ。この道を、偽セレドにいる彼らが歩くことはこれからもたぶんない。
だけどこの道に気がついた誰かが、真世界から偽世界への道を逆にたどってセレドをめざすなら、それはありえない話ではないと思うのだ。トゥーラの音色を取り戻したセリクかもしれないし、大人になって旅に出ることを決意したルコリアかもしれないし、あるいは施療院から出ることを許されたティタかもしれぬ。
そのときは。
頼まれれば「はい」としか答えないマメミムは、頼まれなくても彼らの護衛をさせてくれと願う。彼らの旅の先にあるものがなにであったとしても、それを見届けるためにマメミムが労を惜しむことはないだろう。アストルティアの時間が進んでいるあいだ、もしも偽世界の時間が魔族基準でゆっくり進んでいるのであれば、子供たちは未来に会うことができるから。
3年が過ぎてもこんなことをしているマメの歩み。