ひとびとが苦難を乗り越えたとき、アストルティアの空に天星郷があらわれる。レンドアの空に出現した正体不明の空中都市を見上げたフォステイルが「ふぉすふぉす」と呟いたかどうかはわからないが、マメテントの郵便ポストになにやら手伝ってほしいというパルミオからの手紙がぶちこまれる。
いまさらだけど。
マメミムは外見や声がどのようなものかは別にして言動で人物を評価する。王国最強の剣士でありながら我が身を女王に捧げるメルー公はかっこいいし、民衆を守る正義のためなら王も我が身もころして平然とするフォステイルはオーベルシュタインなみの陰謀家だと思ってる。もちろん外見や声も言動とは別に評価するから、王国最強の剣士でありながら我が身を主君に捧げた上に甘いハンサムで声が井上和彦のファラスは最高にすてきだと思う。井上和彦といえばギルバート・ブライスか島村ジョーか甲乙つけがたい。
閑話休題。パルミオから空中都市に向かう計画を聞いて、どうして人間を月まで打ち上げたペリポンではなくこいつからの依頼なんだろうと考える。技術者としてはペリポンが優っても、研究者としての好奇心はパルミオが勝りそうだといえばそれまでだが、いざ大空を飛んでみせたマメミムたちを迎えに雲霞のようにやってきた、羽つきどもへのパルミオの態度を見て疑問は氷解する。
「翼はあるけどエルフとはちがう生き物」
「弓を扱う知能はあるようだ」
「雌雄のサンプルがあれば持ち帰りたい」
きちがいには先入観がない。パルミオにとって目の前に現れた羽つきは天使ではなく羽がはえた未知の生物だから、天使の出迎えなんてロマンチックねという糖蜜に漬けた砂糖菓子の夢ではない公正な目で彼らを評価する。誰何もなく問答無用に降りそそぐ矢に襲われて、謎の金属塊まで撃ち込まれてマメミムもパルミオも撃墜される。いきなり空に現れて、来訪者に矢を射かける羽つきは友好的ではないが好戦的というよりも、くびかりぞくが彼らの縄張りを侵されて過敏な反応をするのに似ているかもしれぬ。
撃墜されたマメミムたちの前に現れたのは、ユーありのままでゴーしちゃいなよ通称ユーちゃんマジバッジとかいう羽つきだった。あなたは試練を受けるのですとかわけのわからぬ演説がはじまるが、このときマメミムが考えたのは破界篇から奇妙に思っていた違和感の正体だ。一見して天使のように思わせる、こいつら羽つきには頭上の輪っかがない。前作でマギー(本名マーガレット・サッチャー)を名乗って全魔王を討伐した身としては、翼と輪っかが天使の証明であることくらいは覚えてる。ことさら羽根や翼を強調して、頭をかぶとで隠しているのは彼らが天使ではなく天空人でしかない暗示ではないか。
これは羽つきどもの企みを調べたほうがよいかもしれぬ。天星郷に飛べるという燭台を渡されたマメミムは、英雄候補が集まる試練とやらに招かれるけどこれはユーちゃんマジバッジにむりやりねじこまれた特例らしい。どんな特権を使ったのかしれないが、彼女を特別扱いにしろと紹介されたマメミムが白い目で見られるのは当然だからせいぜい愛想よくふるまうことにする。
「さあ輪っかのない頭を客人に下げなさい」
オーガの英雄候補であるラダ・ガートと会うけれど、彼がギルガランでもガミルゴでもないことに首を傾げる。またまた燭台ごと撃ち落とされたマメミムを手助けしてくれるおひとよしのいいひとだけど、ガートラントの建国者といえば悪名高い聖守護者の闘戦記を巻き起こした張本人ではないか。どういう基準で彼が英雄として選ばれたのか。
法のない世界で罪深き者を決めろという、羽つきの恣意的な倫理観を教えてくれる試練をさっくり済ませたあとで、フォーリオンの都を訪れるとだいたいの事情が知れる。空を飛べないものが苦労するように工夫されたみかけだおしの都市。食事が不要で生態系に寄与しない住民たち。英雄候補にラダ・ガートどころか陰謀家フォステイルを選ぶ価値観。羽つきどものだいたいの姿が見えてくる。
自分たちを天使だと信じてうたがわないできそこないの有機体。
おそらくそれが天星郷に暮らす羽つきだ。彼らがアストルティアのことはもちろん、本来の天使のことすら知らぬこともすぐにわかる。資料館にある「人間が天使をもとにつくられた」説明が事実と真逆であることに、前作の記憶があれば気づくだろう。人間は見も知らぬ助けに感謝することができるのか。それを証明するために人間に似せてつくられたのが天使である。時の王者として災厄の王も退けた星空の守り人のことを、三代目の王者が忘れるわけにはいかぬ。
それでもここが女神ルティアナにかかわる場所であることは間違いないらしい。羽つきがもとからここに暮らしていた生き物なのか、メーダのような外宇宙からの飛来生物なのかはいまのところわからない。