環境がひとをつくるとは思ってないが、環境がひとに影響を与えることはやむをえぬ。兄弟姉妹に育てられればキュルルのような性格にもなるし、エテ王族に育てられればキュロノスになって世界をほろぼしたくもなる。ジャゴヌバは彼が接した人々から暴虐、戦禍、虚無、禁忌、嘲弄、渇欲、怨嗟という概念を学びあのような性格にもなった。
天空に浮かぶ牢獄。
フォーリオンに生まれ育てばたいていのひとはきちがいにもなるだろう。もちろんそうではないひとだっているけれど、ひとたび羽つきとして生まれ育てば数百年数千年と変わらぬ姿のままで、寝食すら必要なく、髪を切っても怪我をしても形状記憶合金めいたチカラでむくむく修復されてしまう。痛覚をはじめとした感覚器官がいちじるしく低下して、あんまり刺激も感じない。脳の成長すら固定されるから、新しいことを考えるのもむずかしい。体がこわれて転生するたびにやりなおしになるのだから、正気を保てというのが無茶な注文だ。
世界を見下ろす審判ごっこをするために、必要もない試練場をみっつもよっつも建てた羽つきどもは、これを支える大量のエネルギーを手に入れるために人間からおかねをまきあげることを思いついたというのはクルットルが話したとおり。この巨大なやくたたずにエネルギーを供給するピラーが「ダッセえ」アシュレイに襲われて、ではとこしえの神殿を守る結界を解こうという話になる。だれがどう見ても結界を解かせるための陽動だけど、ばかをだますにはばかなさくせんこそふさわしい。
アタシにまかせておきなと妖怪人間ベラのように結界を守りにいったごりら長は、レヲーネのペガサス流星拳に吹き飛ばされると姿を消しちまう。神殿に安置されていた楯がこわされて、宇宙の果てからでかい宇宙船がやってくる。これで襲来したのがクラーリンだったら人類には絶望しかないが、あらわれたのは「んふ(はぁと)」と笑う、戦隊もの特撮番組の悪の女幹部みたいなルミナちゃんだった。
うむ微妙。
彼女のコケティッシュでキュート(たぶん意味が違う)なそぶりに違和感を感じたわけじゃない。ごりら長やチンパンたちが、襲撃者の存在を秘密にするほどこわがってる様子もたいがいだったけど、現れた宇宙船とルミナちゃんの大仰なパフォーマンスとそれにおそれおののく羽つきどもがなんというかお似合いだった。ばかにはばかがふさわしい。もしかしてそれは敵味方双方に言えるのではないか。
羽つきどもが数百年数千年も襲撃から身を隠していたのなら、ジア・クト念晶体を名乗る石ころ生命体どもだって数百年数千年も飽きもせず羽つきを探していたことになる。にぎりしめた拳ほどの大きさもある赤い石を羽つきにまるのみさせて操ると、いずれ内部から結界を解いて楯をこわす者が現れるのを待つというたいへん悠長な方法だ。女神ルティアナが消えてパニックになった羽つきどもがしんかの儀をやろうと決めたことでようやく進展したけれど、これがなければこの先数百年数千年も事態はこのままだったかもしれぬ。
おおぶりなテレフォンパンチならぬキックをぶんまわしては「んふ(はぁと)」と笑うルミナちゃんも、それに心酔して石ころ相手にぼくらを支配してくださいというレヲーネも、おびえるでなければチカラにチカラで対抗しようとする羽つきどもも、彼らなりにまじめなのは伝わってくるけどなんというかお似合いだ。なんだろうとマメミム考える。
彼らが望む先にあるものがない。
マデはマデなりに理不尽なルティアナの世界よりも自分が創造する世界がふさわしいと考えた。キュロノスは彼なりに絶望した果てに時見も時渡りも必要ない未来を望んだ。羽つきや石ころにはそれがない。どうして襲いかかるのか。どうして守るのか。その先に望む世界や未来の姿が彼らからは見えてこない。数百年も数千年も変わらないまま、望むものがなにもないというのなら、なんてあわれなできそこないどもだろう。
マメミムだってたいそうなことを考えてるわけじゃない。めのまえで困ってるやつを助けない理由がない。頼まれればいいえとはいえない。そんなおせっかいのおひとよしたちが英雄だの神様だのまつりあげられて苦労してるから、せいぜい手を貸してやろうじゃないかというだけだ。なにしろひとだすけはきぶんがいい。
羽つきと石ころたちはなにを望んでいるのだろうか。
とりあえず、やくたたずの試練場をガイエスブルクよろしく連中の船にぶつけたらさぞきぶんがよかろうと考える。