んふ(はぁと)と言いながら、ルミナちゃんがあらわれた当初からマメミムは違和感しか感じなかった。フォーリオンにすむ羽つきどもが、異常な恒常性維持機能をもつできそこないの生物もどきだとすれば、ジアクトと称する石ころどもは、代謝もなにも行わない生物未満の鉱物そのものだ。パルミオ博士のところに標本でももっていけばもう少し研究がすすんだろうが、タマシイこそが人格であるというこの世界の法則に従えば、いきものの肉体を得られなかったきのどくな連中とは言えるかもしれぬ。
王に認められた幹部の率いるジアクトの軍勢。
これがもうおかしい。彼らのような、個体として不完全な存在なら個人の存在など認めない群体のほうがずっとつよい。アリのように群れを生み出す女王がすべてを率いるか、カツオノエボシのようにすべて同じジアクトたちが部位によって役割を分担する。前者なら巣の奥にいる女王が倒れぬかぎり、後者ならすべてのジアクトを倒さぬかぎり侵攻はつづくことになる。一頭のゾウを倒すよりも一万匹のアリをころしつくすほうがたいへんだ。
なんでこんな非効率な階級制してるの?そう思ってジャゴヌバの姿が頭にうかぶ。かつて女神や賢者たちに対した異界滅神は、じぶんをにくむ相手から暴虐戦果虚無禁忌嘲弄渇欲怨嗟の七つの感情を教わった。幾人かの大魔王からも、新しい概念を学んだ彼はユシュカの協調を知ろうとした。それが歪んだ理解になったとしても、自分が接した相手から影響を受けやすい。それがたぶん石ころどもの性質だ。
神話時代よりもはるかむかし。
とこしえのゆりかごを襲ったジアクトどもは、世界をほろぼすなかでガナン帝国に遭遇した。唯一絶対の暗黒皇帝が将軍たちを従えて、天使のチカラを吸い上げながら世界征服をめざす国。おそらくというかほぼまちがいなく、彼らに出会ったジアクトは彼らの影響を受けて天使がいるフォーリオンを追跡した。
そんな石ころ幹部たち。フォーリオンを襲った「王の愛」ルーベも神代の島に現れた「王の叡智」サフィルも彼らの王におだてられると、彼らがいう下等種族とやらに一蹴されてしまうのだけど、このとき同行していた黒衣の剣士さんが身を張って我が子を守ろうとする姿に理解ができないと首をかしげていた。おれも理解ができないけれど、こいつの性格だから気にすんなとは言いたい。
とはいえ。
ガナン帝国にすら影響を受ける石ころだから、黒衣の剣士さんの理解ができない行動にも影響される。おそらくサフィルは彼ら石ころ生物たちのなかではじめて、親しいだれかのために我が身を捨てるほどのつよい愛情を認識した。いままでジアクトに接しただれもが、彼らにたいしてろくでもない感情しか見せてこなかった。とこしえのゆりかごではガナン帝国が、フォーリオンでは羽つき生物たちがジアクトに感情のなんたるかを教えていた。彼らが自分たちのろくでもなさに気づくことすらなかったとしても無理はない。
あるいは黒衣の剣士から感情を教わったサフィルであれば、ジアクトの世界を変えることはできただろうか。それは誰にもわからない。のちに神話の世界から帰還したマメミムたちを迎え撃ったサフィルは撃退されたあげく、相棒ルーベを自爆装置から守るために我が身をささげて消滅した。たぶんこのとき石ころのなかにはじめて生まれた愛情は消え去って、ルーベのなかにはそれまで彼女が親しく接していた悲しみや憎悪がのこされた。
ジアクトが変わることができたかもしれない唯一の可能性は生まれてすぐに消滅した。それが歪んだ理解になったとしても、ジアクトは自分が接した相手から影響を受けやすい。ならばサフィルの愛情はルーベにも残されていただろう。それが悲しみと憎悪の海にさらわれるちっぽけな岩くらいの大きさだったとしても。
だけど、だけど。
サフィルが守ろうとしたルーベに目を向けるものはこの世界には誰もいなかったのだ。