プロローグ
――また、過去の夢を見た。
彼は執事であり、主の命には忠実であらねばならなかった……そう、そのはずであった。
かつての主は聡明だが冷徹、酷薄な笑みを浮かべることはあっても、談笑を交えて本心を語り合うといったことは最後までなかった。
そして、その執事を象徴する能力――〈魔装〉。
今でこそ人々を護るためにあるこの力は、かつての主の手によって施されたものであり、結果的にそれが袂を分かつ原因ともなってしまったのは皮肉な話でしかなかった。
かつての主が夢に現れたのは、魔装によって意に沿わぬ戦いを強いられていた頃の記憶か、はたまた恩人とも言えるべき存在に背いたことへの罪悪感からなのか。
答えの出ないそれらを振り払うかのように、そのウェディの青年は静かにかぶりを振って――まだ日も出ない時刻にも関わらず、黒の執事服を完璧に着こなし、怜悧な双眸に装着された銀縁の眼鏡が一瞬の輝きを見せた時、既に彼の表情からは一切の迷いが消え去っていた。
プクランド大陸、オルフェアの町からほど近い丘の町〈プクリポリタウン〉――現在はそこの執事を務めるウェディの青年はアクアマリンの髪を後ろへ流すように整え、颯爽と屋敷の目覚めの準備に取りかかるのであった。
特に本日はとあるゲストに加え、それを目当てに大勢のプクリポの子どもたちが来訪する予定である。そのため、彼には執事としての完璧な仕切りが求められていた。
その蒼穹なる執事の名は――セバス。