1 忍び寄る過去の足音①
「すごいね、セバス! みんな大喜びだよ!」
プクリポリタウン2番地、本宅の屋敷。
その一階の大広間では、いかにも魔女であると言わんばかりの風貌の長身グラマラスな人間の女性が、大勢集まっているプクリポの子どもたちに物語を読み聞かせているところであった。
星を刻印したメダリオンのような装飾が施された漆黒のハットと同色のリボンを首元にあしらい、更には胸元が大きく開いたドレスのスカートから覗くその左脚は、まるで鋼鉄のように硬質な鈍い輝きを纏っていた。
やがて魔女は波打つゴールデンブロンドの髪をなびかせながら、片手に携えた物々しい装飾の書物のページを、ブラックオニキスのネイルで摘んでめくってみせる。――驚くべきことに、その本からはまるで映像が立体化するかのように、描かれたシーンが眼前でドラマのように展開されていた。
「まるでアストルティア放送局の映像が飛び出してきているみたいだね! 魔法ってすごいな〜!」
朗読会場の片隅で直立の姿勢を崩さないウェディの執事セバスの隣――否、足元と言うべきか。
エルトナ大陸の稲荷寿司を思わせるような毛色のプクリポの少年が、糸のように細い目を精一杯見開きながら、冒頭の台詞に続いてセバスに感嘆の声を漏らしていた。
事実、観客であるプクリポの子どもたちも目の前で繰り広げられる『物語の世界』にすっかり惹き込まれており、場面が変わるごとに笑いや驚きの声がどっと巻き起こるのであった。
足元のプクリポと観客の子どもたちを交互に見比べながら、セバスがクールに微笑みを返す。
「フフッ、クロム様も最前列でご覧になられたいのではありませんか?」
クロムと呼ばれた糸目のプクリポが一瞬動きを止めた後、ぶんぶんと頭を横に振りながら、
「いや、僕はプクリポリタウンの主だからね! みなをしっかりおもてなししないといけないんだ!」
と、誘惑を振り払う小さな〈主〉を見つめるセバスの顔に、自然と優しげな笑みが浮かぶ。
――このクロム少年が新たな主となってから、はや数年が経とうとしていた。
見たままの無邪気さの隙間から時折覗かせる、どこか達観したかのような様子……まるで一度別の人生を歩んでから生まれ変わったかのような、どこか神秘的な雰囲気を持つプクリポの少年のおかげで、彼は第二の人生を歩むことができたのだ。
かつての主の前で心の底から笑ったことが、ただの一度でもあっただろうか――セバスの脳裏に冷え切った過去の光景が蘇るも、魔女の朗読会に目を向けることで、それを上から塗り潰そうと試みる。
既に物語は佳境へと差し掛かっており、そこには漆黒の闘衣に身を包む恐ろしい魔物〈妖女ゼルドーラ〉の姿、そして水晶の剣と水鏡の盾を構えてゼルドーラと対峙する〈勇者アレクシス〉の姿がリアルに映し出されていた。
緊迫したシーンを前に、観客であるプクリポの子どもたちからは悲鳴が上がり、セバスの足元にはクロムがしがみついてブルブルと震えながらも目が離せないでいる中、
「勇者を苦しめた妖女の蛇睨みが、再び彼へと向けられる……嗚呼、哀れなる勇者よ、またしても全身の動きを封じられてしまうのであろうか」
魔女の真に迫った語りと同時に、立体映像化している妖女ゼルドーラの瞳が金色の妖しい輝きを放つ。物語に見入っていた子どもたちが思わず目を逸らす中、
「だが……勇者に同じ技は二度と通じない。磨き抜かれた水鏡の盾は妖女の術を跳ね返し、呪いはそのまま術者へと向けられる……!」
まるで声そのものが魔法であるかのような語りに魅せられ、子どもたちが固唾を飲んで次の展開に目を凝らす。やがて動きを封じられた妖女を勇者が水晶の剣で貫き、辺りにまばゆい光が広がる場面へと移り変わり――