2 魔装展開、ウェナブルー!①
――そこには、二体のキラーマシンが現れていた。
屋敷を飛び出したセバスが、町の入口へと続く長い階段の上から瞬時に目線を落とす。眼下に広がる入口前の広場で、深く青いメタルボディの二体は頭部中央のモノアイを動かし、何かを探している様子であった。
(キラーマシン……遂にここまで来たのか)
今のところは、プクリポの子どもたちを追い回してまで襲うつもりはなさそうではあるが――発見した時点でのクロムの素早い誘導により、やや離れた小高い遊具エリアに避難し、入口前の広場を見下ろす格好の子どもたち。こちらもクロムによって怖がらないよう、これがショーの一環だと聞かされている。なので絶対に降りて近寄らないように、とも。
そして後発のエリミリアと共に、再びクロムが素早く子どもたちの元へ到着。すかさず魔女が高速詠唱で遊具エリア全体に輝く透過性の防壁を展開したものの、キラーマシンが意に介する様子は依然として見られない。
「わー、キラキラだ〜!」「ヒーローはいつ来るの〜?」と、事情を知らない子どもたちが楽しげにざわめく中、即座に現状を察したセバスが実戦ではまずあり得ない口上を声高らかに宣言してみせた。
「現れたな、悪の殺戮マシン! 正義の名の下、この私が相手になる!」
銀縁眼鏡を胸ポケットにしまい、拳を固めて腕を胸元で交差させると同時に、全身から爆発的に立ち昇る蒼のオーラが凄まじい輝きを放ち――
「魔装展開!」
コードが解除された刹那、硬質化したそれは鋭角的な蒼穹のバトルスーツと化す!
交差した腕を力強く解き放ち、セバスの怜悧な顔を覆うフェイスガードの目が紅く輝いた時――そこに立っていたのは一人のヒーロー、正にそのものであった。
「ウェナを舞う蒼穹の風! ウェナブルー!」
手刀を掲げたスタイリッシュな決めポーズに、プクリポの子どもたちから、
「わー! ウェナブルーだー!」「カッコいいー!」「頑張れー!」
万雷の拍手と歓声が沸き起こる中、主であるクロムは(この台詞、セバスが頑張って考えたのかな〜?)と、何処か冷静に思案してしまうのであった……。
敵の気配に気づいたキラーマシン二体のモノアイが、高台の〈ウェナブルー〉に集中し――それが一層の警戒色を放ってロックオンの様相を見せた時、これまで緩慢とも言えた動作が、明らかに機械的な殺意に満ちる。
(やはり狙いは私か……ならば!)
レッグガードに覆われた脚部にオーラが集中し、階段の最上段を蹴ったセバスが天高く舞い上がる。青空と一体化したかのように見えるその姿は、まるで天空を舞う蒼穹の神鳥が如きものであった。
そして跳躍の最大高度に差し掛かった時点で華麗な宙返りを見せ、回転エネルギーを加えたセバスは全身にオーラを展開――両腕を翼のように広げ、そのままキラーマシンの一体へと急降下する!
「ウェナブルー・アルシオン!」
神話における幻の鳥を冠した蒼穹の片翼が、キラーマシンの金属ボディを両断寸前にまで斬り裂く。その断面から火花をスパークさせた殺戮機械が、たまらず足元から崩れ落ちた。
「次!」
着地を狙って斬りかかる二体目の刃を紙一重で回避し、間合いを取ったセバスが手刀にオーラを集中。そして、斜め上段に薙ぎ払ったそれは――
「ウェナブルー・クラッシュ!」
放たれた蒼い閃光が相手の心臓部を貫き、モノアイから光が消えた二体目は完全に活動を停止。それを見届けたセバスが子どもたちを見上げたその時、
「あーっ! 危ない!」
クロムの叫びで振り返ると、斬り裂かれたはずの一体目のキラーマシンが、最後の力を振り絞らんとばかりに左腕のボウガンでセバスに狙いを定めていた。
(まずい、これは食らうか)
防御姿勢を取ろうとした時――キラーマシンの頭部がおもむろに『闇の力で爆ぜた』事実を、セバスは轟く爆音と同時に理解した。
「これは……ドルモーア?」
今度こそ確実に破壊されたキラーマシンをよそに、再び見上げたセバスの目線の先には、ブラックオニキスに輝くネイル――その先端を殺戮機械の残骸を向けていた、エリミリアの姿があった。
「……ただの杖無しドルマ、よ」
呟きと同時に防壁が解除され、リアルな『ショー』を観劇していた子どもたちが、こぞってウェナブルー姿のセバスへと駆け寄る。
「ウェナブルーつよ〜い!」「抱っこしてー!」
小さなプクリポたちを一人ひとり撫でたり、抱っこしたりと忙しいセバス。――その視界の隅で、静かにプクリポリタウンから立ち去る影の姿を、彼は見逃さなかった。
抱き上げた何人目かの子どもを優しく下ろし、セバスがクロムに目配せする。クロムが頷くと同時に、彼は素早く影の後を追うのであった。