4 執事と魔女と武闘家と①
夕暮れのプクリポリタウン。
プクリポの子どもたちは、そのほとんどが帰宅しており――万全を期して、クロムやエリミリアが同行する集団下校のような形をとったのだが、その中で一人だけ居残っている、小さなプクリポの少女がいた。
「まじょせんせい! メラはもうできるよ!」
「はーい、じゃあそれをもっと何発も何発も撃てるだけ撃ってみて〜」
屋敷の庭先で、ツインテール頭の左側にリボンをつけた白いプクリポの少女が、しゃがみ込んで魔結界を展開しているエリミリアの手元にミット打ちさながら小さな火球を連発している。
「るっちちゃんすごーい♪ じゃあ次は頑張って……メラミ!」
「メラミ!……あれ? メラミ!」
うさぎのように赤い縦目を一生懸命見開きながら詠唱を続ける『るっちちゃん』と呼ばれた少女、るっちーの。しかしどれだけ唱えても、火球はその場でプスンと消えてしまう。
「落ち着いて〜、魔力を高めて〜……はい、もう一度!」
エリミリアの声に合わせて、るっちーのが深呼吸。心を落ち着かせてから、再び声を高らかに――
「――メラミ!」
るっちーのの小さな手のひらから、今度はメラの火球より何回りも大きな火球が飛び出し、それは確かな手応えをもって『まじょせんせい』の魔結界に受け止められた。
「やったー! できたよー!」
「おめでとう、るっちちゃん! これで杖を持てば、もっと安定してできるようになるからね〜♪」
その微笑ましい光景を眺めながら、屋敷の主であるクロムがうんうんと頷いている。
「子どもの頑張る姿は感動的だよね〜」などと、細い目を更に細めながらもお兄ちゃん気取りである。――と、そこによく通る女性の声が響き渡る。
「頑張っててえらいわね、るっちー! でもそろそろご飯の時間なのだわ!」
「あっ、ままだー!」
『母』の声に振り返ったるっちーのが、トコトコと嬉しそうに駆け寄っていく。そこに立っていたのはお母さんプクリポ――ではなく、プラチナブロンドの髪をストレートに伸ばした、スタイリッシュなオーガの女性であった。
「あっ、マユラさんいらっしゃい!」
「今日もるっちーと、ついでにえりみーがお世話になったのだわ! いつもありがとうね!」
オーガに相応しい豊か過ぎる胸部を強調するような黒のワンショルダーから露出しているウエストはしっかりと絞られており、うっすらと浮き上がっている腹筋からも、マユラと呼ばれた女性の鍛錬の軌跡が如実に見て取れる。
「ちょっとマユちゃん、その呼び方エリミネーターみたいだからいい加減やめてくれなぁい?」
人間の中では相当に長身であるエリミリアが立ち上がった姿と比べてみても、やはりオーガであるマユラの方が頭半分近く目線が高い。
「ここへ来るまでに気を張り巡らせてみたのだけれども、怪しい連中は見当たらなかったのだわ」
プクリポの子どもたちを家まで送り届けていたクロムが、その過程でマユラに一連の出来事について報告しており、周囲の警戒のために彼女へ協力を要請したほどの知った仲なのだが、そもそも何故そのような危険なことを彼女に依頼したのかというと――
『マユちゃんは私のパーティーの中でも鬼強い武闘家だからね、るっちちゃんのためにも是非協力してもらいましょ』
エリミリアとマユラは同じパーティーのメンバー同士であり、お互いの腕前に関しては熟知していることから、クロムもより気兼ねなく彼女を頼ることができたというわけである。
「ありがとう、マユラさん。リーダーみたいな奴はセバスが追ってるんだけど――あ、帰ってきたよ!」
ルーラストーンの輝きを伴い、セバスが屋敷の前に着地する。その身のこなしは相変わらず洗練されているものの、憔悴した様子は完全には隠しきれないでいた。それでも眼前の主と魔女、そして来客に対する一礼は忘れない。
「ただいま戻りました。……マユラさん、今回の件についてはご心配をおかけし、誠に申し訳ありません」
るっちーのを含めたプクリポたちが危険に晒されたことに対し、今度は深々とマユラへ頭を下げるセバス。
「貴方はよくやってくださったと聞いているのだわ。だから、どうかお気になさらず」
「で、どうだった〜セバス?」
るっちーのを抱っこしながら微笑むマユラと、その後どうなったか気になって仕方ないクロムの声を受け、セバスが事の次第を報告する。エリミリアが所在なさげにネイルの手入れをしていたり、マユラの腕の中でるっちーのが寝てしまったりする中、辺りはすっかり暗くなってしまっていた。
そして、セバスがシキョウによってゼーエンの身柄を奪われてしまったところまでを話し終えたところで、エリミリアが顔を上げる。
〜4 執事と魔女と武闘家と②へ続く〜