4 執事と魔女と武闘家と②
「ふぅん、アズール・ドゥジエムねぇ〜……とりあえずもう魔力が切れかけみたいだし、ちょっとサービスしてあげる」
おもむろに魔法の聖水を振りかけられ、MPが少し回復したセバスが「ありがとうございます」と恭しく一礼。そして報告をすべて聞き終えたクロムは、
「お疲れ様だったね! とりあえず今日はご飯をたくさん食べて休むのがいいよ! 皆さんも今日はありがとう!」
と元気よく手を振る。そのクロムに一礼の後、マユラたちを見送ろうとするセバスへ、
「君の魔装もズタボロでしょうし、アフターケア、アフターケア。――あ、それとマユちゃん」
「何かしら、えりみー?」
「だからその呼び方やめろってのよ。とりあえず例の仕事、マユちゃんのオーディション決まったからね」
パーティー内での仕事の割り振りなのだろうか、マユラがパッと目を輝かせる。
「お、えりみーナイスゥ! 子どもたちの食費のためなら何だってやっちゃうのだわ!」
「喜ぶのは受かってからよぉ〜?」
「分かってるって! じゃあね、皆様!」
空いている方の手でルーラストーンを掲げ、マユラがるっちーのを片腕で抱きながら自分の家へと飛んで帰る。それを見送ったセバスがエリミリアへ、
「今日は長く滞在していただき、本当に助かりました。他のご予定もあったのでは?」
「そうだよ〜魔女さん、夜のお仕事とか大丈夫?」
「今日は帰っても実験ぐらいしかやることないし、別に問題ないけどぉ〜……クロムちゃん、それはちょっと意味が違ってくるわね」
しっかりとクロムにツッコミつつ、エリミリアが再び何処からともなく手提げ籠を取り出し、幾つかの道具を見繕いながら、
「さ、まずは魔装を見せてもらわないとね〜。外はもう暗いし、もっかいお邪魔させてもらうわよ」
「だったら、ついでにご飯も食べていってよ!」
クロムの提案に、セバスも同意の意を示す。
「是非そうしてください、腕によりをかけてご用意いたしますので」
「じゃあ今回の料金は、魔装のデータとお食事ということにしましょうか。ありがたくいただくとするわぁ」
セバスがクロムとエリミリアを邸内へ案内し、玄関の扉にしっかりと鍵をかける。――その僅かな時間、彼はふと背中に魔女の妖しげな視線がじっとりと向けられているような感覚に襲われた。
向き直るセバスの目に入ったのは、普通に前を歩くエリミリアの背中でしかなかったものの、魔女が僅かに覗かせた鈍色の左脚が、意味ありげな輝きを放っていた――そう見えた気がした。
「もう歩いても平気なのかい、ゼーエンさんよォ」
「……ああ、問題ない。面倒をかけたな」
深夜――低い機械音が僅かに響く、赤い絨毯の大ホール。その壇上に主の姿はまだないが、壁にもたれかかって待機していたシキョウの飄々とした態度とは対照的に、ゼーエンが重い体を引きずるかのような足取りで姿を見せる。
「今回の作戦は休んでいいとボスは言っちゃあいるが、もう今回みたいなのは勘弁してくれよなァ?」
「分かっている……!」
苦々しく吐き捨てるゼーエンの耳に、背後から豪快だが耳障りな笑い声が響き渡る。
「グハハハハ……貧弱と言う他はなし! 玩具に頼った戦いばかりしているからそうなる!」
チッ……と忌々しげに舌打ちするゼーエンの後に続き、見上げるようなオーガの巨漢がズカズカと足音を立てて現れる。炎が燃え盛るような髪、自慢の筋肉をひけらかすような、前を開けた粗野なベスト姿――その両腰には、それぞれ炎のような刀身の剣が一振りずつ差されていた。
相手にするのもしんどい、といった様子のゼーエンに代わり、シキョウが壁から体を起こしながら、
「それはあんたも同じだぜェ、ジンオウさんよォ。ガキみてェに目先の相手とばかり遊んでやがるから、肝心な時に首魁を取り逃す。お分かりで?」
「笑止! 数さえ減らせればそれでよし! そうすればいずれ全滅させられるというものよ!」
「本物の馬鹿だな……あァ、もういいや。あんたはもうついて来なくていいぜェ」
「……おう、それは俺様に喧嘩を売っているのか?」
気色ばむジンオウの体から、熱量を帯びた陽炎のような闘気が湧き立つ――それも、魔装を介することなく。
(これだ……ジンオウは単細胞だが、生身でオーラを発現できる凄まじい戦闘者には違いない。チッ、何故こんな奴が……!)
ゼーエンが内心で毒づく中、ジンオウの闘気を向けられたシキョウの瞳が紫に輝き、その影が深い闇の色に染まる。
「予言してやるぜェ……手前ェは七秒でお陀仏だ」
「抜かしおるわ! その素っ首、叩き落としてくれる!」
〜4 執事と魔女と武闘家と③へ続く〜