6 紅蓮の羅刹王②
客間から奥に見える自室へ着替えに行ったマユラの背中を、セバスが立ち上がって見送る。その時、彼はいつの間にか三人の小さなプクリポたちが、入口からひょっこりとこちらを覗いていたことに気づいた。
「あっ、セバスちゃんやないの〜」
「ほんとだ、セバスちゃんだー」
「セバスちゃんだー」
セバスと目が合った三人の子どもたちが、思い思いにトコトコと駆け寄って来る。
一番最初に走ってきたのが、茶色いくまの被り物と出っ歯の口吻がお気に入りの、他は何も着ていないぬいぐるみのような長女、るーみー。
二番目にやって来たのが、昨日プクリポリタウンへ来ていた、白いうさぎのようなツインテールにリボンをつけた真面目な次女、るっちーの。
そして最後にやって来たのが、おかっぱ頭に色違いのリボン、もこもことしたパンツをはいているひときわ小さい甘えん坊の末っ子、るみえる。
次女と末っ子は色こそ違うものの同じ形の縦目をしているが、長女のるーみーだけは、つぶらな丸い目の中のキュッとした黒目でこちらを見つめていた。
「セバスちゃん遊びに来たんか〜?」
「まじょせんせいはいないの〜?」
「いないの〜?」
その場でしゃがみこんだセバスが、それぞれの子どもたちに笑顔で目線を合わせる。こちらもお喋りしたりなでなでしたりと慌ただしい中、
「ほらほら、セバスさんは忙しいの。今日はお家かお庭で大人しく遊んでいてちょうだい。あ、今日はお庭の一番下まで来ちゃダメだからね」
支度を整えて戻って来たマユラが我が子たちに解散を促し、小さな三姉妹がそれぞれ、
「はーい、まっまー」
「セバスちゃん、またね〜」
「またね〜」
まとめて何処かへ走り去っていく子どもたちを見送るマユラの着替えた姿を、改めて目にするセバス。普段の黒いワンショルダーとは違い、深紅に染まったノースリーブの戦装束、額には金の刺繍が施された深紅の鉢巻がふわりと靡いている。――特にセバスの目を惹いたのは、その腕に輝く竜の頭部を模した、異様な何かを感じさせる籠手であった。
「お待たせしたわね。では、参りましょうか」
マユラの後に続き、セバスが館を後にする。先程の大階段を今度は最後まで下ったところで、彼女が不意に振り返る。
「この壁が壊れているところ、ご覧になった?」
つい先ほど目にした、大規模な壁の崩壊部分。再びそれを見たセバスが頷きながら、
「ええ、私はてっきり隕石でも墜ちたのかと」
冗談のつもりだったのだか、マユラが少し驚いた面持ちでセバスを見やる。
「よく分かったじゃない――それ、やったのはエリミリアの〈ディザスターメテオ〉なのだわ。かつて私とやり合った時にね」
「な……」
まさかの正答に、セバスが思わず言葉を失う。
「ここは元々エリミリアの家だったのよ。ランガーオの魔女って呼び名も、その名残というわけね」
湖畔を臨む野原に風が吹き抜け、マユラが籠手の位置を調整し――そして、セバスへと向き直る。
「始めに言っておくのだわ。貴方は全身全霊をかけて、私を殺す気で立ち向かいなさい」
「待ってください、それは流石に――」
魔装状態の斬撃がまともに入れば、首や四肢などいとも簡単に切断してしまう。相手が凶悪な魔物であればまだしも、対人戦でそれを振るうのはあまりにも危険極まりない。
「分からないなら言い直しましょう。そうしなければ、何もできずに死ぬのだわ――蒼翼のセバス」
〜6 紅蓮の羅刹王③へ続く〜