6 紅蓮の羅刹王④
マユラの両拳に展開された竜闘気を前に、回避は無意味だと悟るセバス。仮に最初の一撃を奇跡的にかわせたとしても、紅蓮の羅刹王は確実に後の先で二撃目を入れてくる。あの質量を防御が固まっていないところに食らってしまえば、致命はまず避けられない。
(エリミリアさんの時のように……全力で!)
セバスが最後の力を振り絞り、残されたオーラの全てを全身の防御に展開する。それを見届けたマユラの拳がミシッと音を立て、竜がその牙を剥く!
「轟殺!」
両腕を交差してガードを固めた蒼穹の魔装に、昇竜が如きアッパーモーションで抉り込む必殺の拳が容赦なくその牙を突き立てる――はずであったが、発現していた竜闘気はインパクトの寸前で急に跡形もなく霧散してしまった。
「うっそ、マジで!?」
驚くマユラだが、それでも遠慮なく振り抜かれた拳は、それ単体の力で魔装の両腕を粉々に粉砕し――セバスの体は、実に数メートルもの高さへと打ち上げられてしまっていた。刹那、そのままの勢いを利用した爆発的な跳躍力でそれに追いついたマユラが抱きかかえてキャッチしたことで、彼は地面に叩きつけられずに済んだのであった。
「ふぅ……間一髪ね。少しやり過ぎたのだわ」
意識を失うと同時に魔装を解かれたセバスをそっと地面に下ろし、マユラが再び竜闘気の発現を試みるも、その竜の頭部は二度と応えることはなかった。
(もう今の私には必要ない機能だったし、いい加減『こいつ』には見限られてもしょうがないか)
力を貸す存在を選ぶ防具であるにもかかわらず、マユラの中ではもはや単なる腕装備としての価値しか見いだしていなかったため、別段気にも留めていない。
(しかし、まさかあのタイミングで……ふむ、試してみる価値はありそうね)
何か思いついた様子のマユラであったが、
「あっ! セバスちゃん死んどる!」
「ままがセバスちゃんをいじめた!」
「いじめた! ひどい!」
るーみー、るっちーの、るみえるの三姉妹が、大階段から転がり落ちるようにやって来る。そこでセバスがマユラの足元で倒れているのを見るや否や、途端にぷりぷりと怒り出してしまった。
(あーあ、だから来ちゃダメって言ったのに……)
母の苦労、子知らずとでも言うべきか。マユラはただただ「……はい、すみませんでした」と子どもたちに謝るしかなかったのであった……。
〜7 灰色の港町①へ続く〜