「夜の神殿に眠れ」の続編をマイタウン三軒を連ねてハウジングすることで表現しています。
その補完で始めたはずの創作ストーリー。
更新は10回目です。
前編です。文字数の兼ね合いでもう一話あげます。
創作とは言え、ネタバレを含みます。ご注意下さい。
行商で各地を巡っていると様々な情報を仕入れることができる。
最近よく聞くのは大魔王マデサゴーラの動きについてだ。
(芸術肌の大魔王だからアストルティア侵攻に今まで興味を示していなかったのに最近はどうもきな臭くなってきたね。
一度アストルティアに戻らないといけないね。)
叡智の冠に属している賢者マリーン。
アストルティアの危機を黙って見過ごすわけにはいかない。
(ユシュカの成長をもう少し見ていたかったけど…
しょうがないね。)
それから1週間後。
夕飯を済ませ、いつものように焚き火をユシュカと囲んでいた。
マリーン「…ユシュカ。おまえもだいぶ強く
なったね。」
ユシュカ「そうですか!?確かに最近は盗賊どもに
遅れをとることもなくなってきましたから ね!」
マリーン「ふふ。調子に乗るんじゃないよ。」
優しく微笑みながら軽くユシュカの頭を小突く。
ユシュカ「む!?褒められたと思ったのに実は
小言が始まるんですか!?」
ユシュカのコロコロ変わる表情を愛おしそうにマリーンは見ていた。
しかしユシュカにはマリーンが何故そんな表情をしているのかわからず、頭の中には疑問符が浮かんでいた。ただその表情に一抹の不安を感じる。
ユシュカ「何かあったんですか?」
マリーン「この旅も随分長くなっちまったね…
そろそろアストルティアに帰ろうと
思ってね。」
ユシュカ「!?」
マリーン「どうにか向こうに還る方法も
見つけたしね。」
ユシュカ「それなら俺も連れて行って下さい!」
マリーン「ダメだ。」
ユシュカ「何故ですか!?
俺が魔族だからですか!?」
マリーン「それは違うよ。
…アストルティアに行き、世界を見てまわ りたいというおまえの夢は知っている。
でも、それは決して短い時間では終わらな い。
…何が言いたいかわかるかい?」
ユシュカ「…はい。」
俯き、微かな声で応える。
マリーン(この過酷な世界で生きてきたユシュカにとってアストルティアの世界は夢の世界なんだろう。そこに行けるチャンスが目の前にある。なのに…
この歳の子にコレを言うのは酷としか言いようがない。それでもユシュカの抱いているもう一つ夢…いや、決意を後押ししてあげるのが師と仰いでくれるこの子への誠意だと思う。)
マリーン「ユシュカ。おまえの夢はアストルティアに 行くことだけかい?」
ユシュカ「…いえ、自分が描く理想郷を
築くことです。」
マリーン「なんのためにだい?」
ユシュカ「暴力に怯え、貴族に搾取されるこの悲しい 国を変えるためです。」
そう。この旅の中で二人は様々な人々を見てきた。
寄る場所無き砂漠の民は常に命の危機に晒され、「護るため」と権力者からは不当に搾取されている。
そんな人々を見てきたユシュカはいつしか夢を抱くようになった。
マリーン「そうだ。彼らは『今』苦しんでる。」
マリーン・ユシュカ「助ける力があって、助けが
必要なヒトがいる。なら助けるだろ?」
二人の声がハモる。
ユシュカ「もう耳タコですよ。」
驚くマリーンとは裏腹にユシュカは笑っていた。
マリーンもそんなユシュカを見て豪快に笑う。
後編に続く。