レシアの冒険日誌

いくつもの鳥居に囲まれた階段を下っていった先には
怪しげな扉が一つ
恐らく、ここに塩化の秘密がある
「オレは……生きなきゃいけないんだ」
誰に聞かせるともなく呟き
扉を開けると、埃の臭いが鼻をついた
長い期間、放置されていたのだろうか
室内を覗きこむと
本棚が部屋の大部分を占めており
中央に机が一つ
さらに、散乱した本と二つの塩の柱


机の上に広げられているのは誰かの手記か


『我らがフィアルセーラの誇る聖都ラ・エシェルの
大聖堂に、秘密の地下室が見つかって早３日
王立研究所より派遣された私は
この地下室に隠されていたとある呪術書の
研究を任されていた』

『この呪術書は、フィアルセーラ建国よりも
以前、神代の呪術すらも残されており
そのなかで私の目を一際ひくものがあった』

『人を塩にする呪い
この呪いをかけられたものは
少しずつ、体が塩に置き換わる
さらに、この呪いの素晴らしいところは
この呪いによって生まれた塩にも
人を塩に変える力がある……ということである』

『聖典は伝える
かつて神は、堕落した二つの町に裁きを下した
善なる人々は、前もって町から逃がされたが
その際、神は決して振り向くなと命じた
しかし、振り向いた人々がいた
するとどうだ。神の言いつけに背いた愚か者どもは
一瞬にして塩の柱と化したというではないか
あれは単なる神話ではなく
この呪いによって生まれた、恐るべき史実であったのだ
いま、我が国がこの力を振るえば
いとも容易く全世界を手中に収められるだろう』

「なんだよこれ……」
読む手にだんだんと力が入る
呪い……なんて、そんなもので
世界征服なんて目的のために
オレは、オレの故郷は、あいつは……
こんな目にあわされているというのか

『呪い発動の術式は完成した
さらにこの呪いから身を守る保護術式も発見した
あとは、一度の実験を経て
陛下に報告しようと思う』

『実験の検体を誰にするかが問題だったが
私の同僚に、研究の成果を見せると言って
検体にすることにした
私がこのような実を結ぶとも思えなかった仕事を
押し付けられたのも、全ては奴のせいだ
いっそ、国のための犠牲となってもらおう
上には共同実験中の事故ということにしてやろう』


『実験は成功した
私の呪いは見事に同僚と
どういうわけか同僚についてきた
同僚の部下を、塩の柱に変えてしまった
さらに、ここにきてもう１つの事実を見つけた』

『術者への生命力還元……とでも呼ぼうか
そもそも、この呪いは人の体を塩に置換するのだが
では、置き換わった人体はどこへゆくのか
……生命力へと変換され、術者に吸収されるのだ』

『私は戦慄した
体が塩のようになる副作用こそあるものの
私は不死に近い存在となったのだ
人が塩になるたびに、私の寿命がのびていくのだ
笑いが止まらない
これならば王なぞに報告することもない
私が、この世界を支配すればよいのだ
世界を塩で埋めつくし
この世界に君臨する絶対神へと、私はなるのだ』

そこまでで、手記は終わっていた
しかし。










白紙のページに少しずつ文字が浮き出ていく
それは少しずつ、しかしはっきりと
文章を構成していった




『そして、私はラ・エシェルを滅ぼし
我が呪いは世界に散らばった
私の命尽きぬ限りは、この呪いは止まらない
そう。どうやってここまで来たか知らないが
この秘密を知った貴様も
我が呪いに呑まれるがいい！！』
手記が黒く発光する
とっさにレシアが投げ捨てた手記は
ページをひとりでにバラバラとめくらせ
浮き上がっていく
黒く発光するそれはいつの間にか
白い光に包まれ、一人の人間となっていた














塩が人の形をしている
そう表現するのが最も適当だろうか
其は世界の何よりも白く
しかし、あふれでる気配は言いようもなく昏かった