筆が乗ったので4.5後日譚を書いちゃいました
行あけます
主役のお三方
大エテーネ島が丸ごと5000年の時を超えて現代に現れてから、数ヶ月が経過していた。
その首都キィンベルを、甲高い声で喋りながら練り歩いている珍妙な一団があった。
昨今、大エテーネ島の外世界から訪れた冒険者や観光客は多く、その整った都市構造や建築物に感嘆するのはよく見かける光景となっていた。しかしその一団の熱量は傍目にも異常で、道行く人々が何事かと振り返っている。
太った老学者、金髪おかっぱの女、痩せたメガネの男の3人組がペタペタと道の柱などを触りながら大声をあげている。
その先頭の太った老学者が、キィンベルの円環を基調とした建築物を指差して叫ぶ。
「ほっほ~ん!ヒスペリカ君。見たまえよ、この幻のエテーネ式トーラスを。細部はこうだったのか!」
「ヒストリカです、ティーチャー。ですが美しい!感無量……いやさエモーショナルゥ!!」
「この材質ホンモノだな……エテーネ王国がまさか、そっくり現代に現れるとは……まだ信じられん!」
大学者フィロソロス、ヒストリカ博士、ロッサム博士の歴史学者トリオであった。
特にフィロソロスとヒストリカの興奮度は凄まじかった。
「見てください、この超古式錬金釜!ニューですけどッ」
ヒストリカは、先程ゼフの店という評判の良さそうな錬金術店で買ってきたばかりのピカピカの錬金釜をこれ見よがしに掲げる。
「ほほん、出土品と形状一致しておるな。まごうことなきエテーネ超古式錬金釜じゃ、すばらしい」
感嘆の声をあげる。そしてヒストリカは…
「てやッ」
それを前を歩くロッサムの頭におもむろに乗せた!
「……?何をするか!」
違和感を感じたロッサムが慌てて飛びすさる。
「どうだ? 実★在 してるぞ、ロッサム。イッツリアル!」
「うっ……」
ニヤニヤと勝ち誇った笑みで錬金釜をすりつけてくるヒストリカ。
ロッサムは優秀な神話学研究者であり、グランゼニス神の遺跡調査や神話関連の著作で成果をあげていた。しかしエテーネ王国が海洋都市リンジャーラと同時代あることに懐疑的であり、前回の学会でヒストリカが提出した論文に対して、実際に出土した超古式錬金釜の時代相違などからフィロソロスも引くほどの細かすぎる指摘をしてヒストリカの論壇における評価をおおいに下げていた。ヒストリカのワラタロー被害No.1である宿敵だった。
しかし突如として完全無欠の証拠が国ごと現れるという、まさに驚天動地の出来事が起こり全ては覆された。ヒストリカの正しさは完全証明されたのだった。
ロッサムとしてもぐうの音も出ない。ヒストリカは有頂天であった。
「あるじゃないか!超古式錬金釜!」
ポコポコと叩く。ロッサムは顔をかばいながら反論した。
「く、こんな事が想像できるものか。私の指摘は学術的に全く正しかった!」
「証拠こそ全て!オマエはそう言っていたぞ、ロッサム」
ほーれほーれ、と「証拠」を見せつける。
そんな2人のいさかいには全く目もくれず、新しいオモチャを見つけたか如くフィロソロスのメガネがキランと光る。
「見よ!ヒスペリカ君、ロッサム君、あれが噂の永久時環じゃぞ!エテーネから各国に送られた書簡によれば今はチカラを失っておるが、あの設備を利用して現代に転移してきたそうじゃ!」
年甲斐もなく、ほんほんほん、と息を切らしながら走り出す大学者。追いかける若手学者2人。
エテーネ円環芸術の粋を凝らした巨大なオブジェを前にして、ヒストリカが失神しかける。
「ぼえ~ん……もう死んでもイイ……デッドオアアライブ?…あとヒストリカです…ティーチャ」
ステータス表示に混乱マークがついたヒストリカがほわほわと答えた。
「目を覚ませ、馬鹿者!」
ペシッ!ロッサムの容赦ないツッコミが入る。
「世話のやける……。先生、そろそろ時間です。メレアーデ様の晩餐会に間に合いません」
「ほーん……今日は時間切れか」
フィロソロスががっかりしたように頷く。そこで、思いついたようにぽんと手を叩いた。
「そういえば、盟友殿に頼んだ石碑もこの目で見る事ができるな!盟友殿に護衛を頼みたいが、あのレベルの冒険者だと高かろうか」
「大丈夫ですティーチャー、ミー、ズッ友ですから!フレですから!酒場で借りられますよ!フリーッ!」
「ほほーん!そうかそうか!では明日の調印式が終わったら盟友殿を誘って石碑を見に行くか!」
「行きましょうティーチャー!」
「ほほほーん!!」
「クウウウウウルッ!」
(私も超古代史学を専攻しておけば良かったな……)
ヒストリカとフィロソロスが紫色に光りながら街路をSHTで駆け抜けていったあとを専攻が神話学のロッサムはテン5ほどのテンションで追いかけていったのだった。