思い出、1
ここは東(ひのもと)国の大笠原列島の小姑島
きょうはホームステイの最後の日だった。
11歳の緑とエレオノーラは岬の灯台の見下ろせる開けた場所で夜の海を見ていた。
「もう1年たっちゃったね。」とエレオノーラが口を開いた
緑はちょっと不機嫌そうに夜空を見ていた。
そこへ緑の父親がラフな格好でウチワをパタパタさせながらやってきた。
緑の父アルベルト・ブリーフトレーガ氏はドイチェ系メリ合州国人で専業主夫の小説家。能天気な大の東(ひのもと)国文化大好き男性。
アル「きょうでみんなが揃ってるのも最後だな。緑、エレちゃん」
緑は不機嫌そうに黙っていた。
「この1年ものすごく楽しかったです。一生分の幸せをこの1年で食べちゃったかも。うふふ」エレオノーラが楽しそうにニコニコしながらそう言った。
緑の父はニコニコしながらちらとエレオノーラを見た。
緑が口を開いた「かーさんはどうしたの?」
アル「きのう一足先にメリ合州国のサナ宇宙基地へ行ったよ。つぎの火星有人計画の責任者を打診されてるらしい。かーさんは自分の参加は断るみたいだが、サナ宇宙基地のオブザーバーなので参加要請されたんだ。おまえらによろしくってさ。」
緑は「ふんっ!」と軽く咳ばらいをした。
エレオノーラは少し真顔になると「そうなんですか。」少し残念そうに言った。
緑は父に買ってもらったばかりの携帯電話の画面を出すと、ネットにつないで人物ウィキを出して「一ノ瀬峰子」と入れた。
すぐに名前と写真が出た。
一ノ瀬峰子
宇宙飛行士、東(ひのもと)国初の女性ノーブル物理学賞受賞者
メリ合州国の火星有人計画の第2回目に計画されたペルセフォネ計画に18歳で国連大学生1回生として参加。亜光速宇宙船ペルセフォネ101に搭乗しアステロイドにおける宇宙事故によってペルセフォネ計画は追行不可能となったが、メリ合州国の非常時用緊急カプセルの正常作動により6人のクルーは全員無事ア-スティアラに帰還した。帰還後、東帝都大学からサナ大学に転学し、物理学科を卒業。在学中にアルベルト・ブリーフトレーガと学生結婚。アステロイドにおける宇宙事故をブラックホールの重力場の影響による宇宙の自然ワープ現象と説明し、その事故時に計測された種々の数値を個人で手に入れ計算し続け8年後にミネコ・スィオリーを発表。タキオンの存在をその理論で証明し、スーパータキオン粒子の存在を予言した。未来におけるワープ航法の可能性をその理論で予言している。
緑はウィキを途中まで読んで画面をうんざりした顔で消した。
みんなはその場で緑の父の持ってきた線香花火をしながら楽しく雑談した。
緑はいつのまにかその場で寝落ちして
熟睡していびきをかきはじめた。