東(ひのもと)王家ほどではないが古い由緒あるオルドムズ王国はかって漁港と観光で栄えたのどかな国だった。立憲君主だったが国民の教育程度も生活レベルも高く、平和な国だった。
しかし軍事クーデターがあって、王家の人々は着の身着のままで国外追放された。それでも命があっただけまだ良かったと思った。なぜならその後、国内で恐ろしい粛清が行われたからである。何十万人の罪なき人々が理由なく命をうばわれた。
追放されたオルドムズ王国の王族はデロ・アレクサンドロス王とリナ王妃と王太子のエメラルド王女3人だった。オルドムズ王国はヨハネス氏の故国であり、彼は孤児だった。ただ彼には持って生まれた『勝負目を読む才能』があった。
13歳から自動車修理工として働き始めたが、異様に、ギャンブル運、株式相場への投資運、先物取引への投資運を持ち、自分の給料を貯めたわずかな小金を振り出しに、何十年かののちに、巨万の富を得た。
その富で、倒産寸前の、いくつもの会社を買い、それが彼が社主になると、まるで憑き物が落ちたように好調な会社となり、それが幾度も繰り返され、いつのまにか彼の企業体はは財閥とよばれる存在になった。やがて彼は押しも押されぬ世界屈指のな大富豪とまでなった。そのときちょうど40歳だった。そして彼は恋をした。
相手はオルドムズ王国の王位継承者エメラルド王女である。
彼女は19歳だったが、相思相愛となった。けれど王位継承者なのでどうにもならず、ヨハネス氏は断腸の思いで恋を諦めた矢先、その軍事クーデターが起きた。
デロ王はリナ王妃の出身国でまだ若い弟が在位しているリケトニア公国に身を寄せた。ヨハネス氏はリケトニア公国へ行き、デロ元王とリナ妃にエメラルド元王女と恋仲であることを告げ求婚した。
デロ元王はアレクサンドロスの名を名乗ることを条件に結婚を許した。
エメラルド元王女と孤児のヨハネス氏は19歳と40歳で結ばれた。
そのあと息子が生まれヨハネス2世(ジュニア)と名付けたが、ヨハネス氏は彼に過大な期待を押し付けたが、彼は平凡で臆病な男の子でしかなかった。
ほどなくして妻のエメラルドは不慮の事故でなくなった。
父親の英才教育と、要求する過大な期待にヨハネス・ジュニアの心は折れ、ヨハネス氏はこのふがいない息子に罵声を浴びせ激しい言葉で叱咤激励し続けた。
やがて息子はその地獄に耐えかねて17歳で家を飛び出し、メリ合州国のヨーク・ニューにラッパーになることを夢見てたどり着いた。そこでヨハネス・ジュニアは東(ひのもと)国の芸能界で傷害事件を起こし居場所をなくした女優の20歳の武烈宮霞子と出会った。
霞子は人の人格攻撃を平気でするどうしようもない最悪の性格の女優だったが東(ひのもと)国ではそんな女優がおらず、一時期はもてはやされたがすぐに飽きられ傷害事件を起こし、東(ひのもと)国にいられなくなりヨーク・ニューに来たのだった。
ヨハネス・ジュニアにとって彼女の最悪の性格も父の罵倒と叱咤激励よりはまだずっとましだったのだ。かれは彼女を愛し霞子と結婚した。
霞子は彼が家から持ち出したそこそこの大金が目当てなだけだった。
1年彼と結婚生活をつづけ、赤ん坊が生まれた。しかしそこで彼が家から持ち出した大金も底をついた。霞子はさっさとほかの男と逃げ出してしまった。途方にくれたヨハネス・ジュニアは赤ん坊を家に連れ帰り、父親に赤ん坊をあづけ「俺の子だ」とだけいうと、そのまま姿を消した。
その赤ん坊が、エレオノーラであった。