僕が故郷の村を出てこの戦に身を投じてから、どれくらい経ったろう?
田舎育ちで世間知らずな僕は、戦功を立てて立身出世を夢見ていたのだけど
現実は、そんなに甘くなかった。
そんな僕と一緒に村を出た彼女は、男まさりの剣技の持ち主で
戦場では、いつも僕よりずっと輝いていた。
そんな劣等感や、浅はかな夢への後悔。
夕暮れになると、僕はいつも宿営地の遠くに広がる赤い空を見て
ぼんやりと、、その空に溶けて消えてしまいたいと思っていた。
情けないな、男なのに。
『 わたしはね、幸せの地図を持っているの。 だから・・・。
あなたが迷った時は、私が導いてあげるよ。 』
僕が疲れていると、彼女はそう言って笑った。
気休めにもならない彼女の言葉に、いつも不思議と笑いがこぼれてしまう。
その地図を見たことは無いのだけど
心はその笑顔だけで、充分に癒された。
彼女の笑顔そのものが、たぶん幸せの地図なんだろうって
なんとなく思っていた。
明日の行軍は、おそらく・・・これまでで一番厳しい戦場になる。
ふたりとも、生き残れるのか?
でも、きっと、大丈夫。
だって、彼女は幸せの地図を持っているのだから。
~ ~ ~ ~ ~ ~
戦場は、想像以上の地獄だった。
自軍は、壊滅に近い状態で敗走を余儀なくされ
足を負傷して逃げ遅れた僕は、血まみれの足を引きずりながら
退く方向もわからず、戦場を彷徨っていた。
すると、歩き進むその遠く先に、ポツリと座り込む見慣れた姿が目に入った。
彼女だった。
彼女の、 ・・・死体だった。
ウソだろ? 彼女は死ぬはずがないのに。
死ぬ理由も、無いのに。
しかし、血沼に沈んだ彼女の折れた剣は
彼女を死に追いやった壮絶な戦闘を物語っていた。
その彼女の手は、剣の代わりに小さな紙切れを握りしめていた。
彼女の、手書きの地図・・・?
ふたりの故郷の村に、赤く大きなマルが描かれている。
『 あなたが迷った時は、私が導いてあげる。 』
そうか。 これが、彼女の 幸せの地図 ・・・。
この僕の浅はかな立身出世の夢に付き合わされながら彼女は
いつか戻る故郷での、小さな幸せを見ていたんだ。
僕は・・・。 僕は、なにもわかっていなかった。
僕は、負傷した足から流れる血を人差し指ですくい
その血で、彼女の描いた大きなマルをなぞってみた。
なあ、神さま。
今度は、ボクが彼女を導く番なんだよ。
僕は、地沼に転がる彼女の剣を拾い上げ
自らの胸に突き立てた。
折れた剣は、期待以上の乱雑さでボクの心臓を壊してくれた。
この激しい痛みでも、僕の罪を贖うには全く足りないのだけど・・・
遠のく意識の中で
ボクは 幸せの地図 に最期の言葉を語りかけた。
『 彼女を、必ずそこに連れて行くよ 』
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