笛、太鼓の軽快な音色が少女の耳に届く。
ここは、七夕を記念して開かれた会場。一年に一度しか訪れない「特別」に誰もが胸を躍らせ、祭典の熱気を互いに高め合う。
風情のある、美しい光景。吊り下げられた灯篭が祝福し、道を挟んで立ち並ぶ露店は喝采する。真夜中にも関わらず、ここには魂がある。生きていたのだ。過ぎ行く息吹を確かに感じながら、少女は奥へと進む。
時折振り返っては、思い馳せる。短冊に願い事を書いたのはいつだったか。とびきりの笑顔で親に頼み、短冊を吊るしてもらう子供達。親子揃って星々に祈る様を、立ち止まり一部始終眺めていた少女。その憂いを帯びた横顔は、とうに過ぎ去った物を欲しているかのように映ったのも束の間、微かに流れた風の向こうへかき消えた。
鳥居をくぐると、一人の少年が少女に声を掛けた。どうやら道に迷ったらしく、親とはぐれたようだ。段々と不安になる気持ちに心を押し潰され、泣きじゃくる少年。そんな少年に対して、少女は優しく手を差し伸べてこう告げた。
「一緒に探そう。この先にいるはずだから」
この言葉に安堵した少年は泣き止み、少女に連れられ共に鳥居をくぐる。夜空に流れる星の煌めきに、必ず見つかると願いながら………