その日、フィズルに呼ばれ、助手とともに発掘現場に駆け付けたドゥラ。
「これは、ウルベア魔神兵?しかし、随分と大きいな」
ウルベア魔神兵自体は、正直そこまで珍しい、ということはない。
しかしフィズルの掘り出したそれは、ドゥラの知るそれとサイズが全く異なっていた。
「ワンオフの特造品?こんなサイズは初めて見る…」
「周りを掘りまくったが、他には何も。手足は失われているらしい」
外部から見えないよう、即席で張られた大きな天蓋の中に横たわるそれは、四肢を持たず、頭部と胴体のみで横たわっている。
「いやしかしとにかくこれは凄い発見ですよ!」
興奮気味にドゥラの助手が遺物に触れる。
「あちこち亀裂が入ってる。危ないぞ!」
フィズルの制止も間に合わなかった。
「あっ…痛っ!」
興奮のあまりの行動。
もちろん、保全の為の白手袋越しにではあったが、装甲の割れ目に触れてしまったことで指先の布地が裂け、ドワーフの太く丸っこい指に血が滲んだ、その時である。
ブゥゥゥン
さそりばちの羽根音のような鈍い振動音を立てて、魔神兵の目が赤く光る。
「う、動いた?」
「早く離れて!」
「あわわわ…」
腰を抜かしてしまった助手を白く淡い光が包み込む。
そして…
「するってェと何か?ホイミを唱える魔神兵ってか?」
折角面白そうな話が聞けるかと思ったのだが、随分と拍子抜けなオチだ。
あんぐりとダンの口が開く。
「いえ、あれはそんな生易しい物ではない」
白い光に包まれたのは一瞬。魔神兵の瞳の光も消え、助手には、しかし何も起きていなかったように見えた。
ところが次の瞬間、ドゥラとフィズルは目を見張る事になる。
「いやしかしとにかくこれは凄い発見ですよ!」
興奮気味に遺物に手を伸ばす助手。
「「よせっ!」」
慌てて二人がかりで助手を取り押さえる。
「うわわっ、一体どうしたんです?」
訳が分からないという表情の助手。それはドゥラとフィズルにとっても同様だった。
「話が見えねぇな」
「助手の指には、怪我の痕が無かっただけじゃない。手袋には破れた跡も、血の染みも一切が無く、助手は魔神兵に触れた記憶も失っていた。それもそのはず。傷を癒されたわけじゃない。彼は、巻き戻ったんですよ」
院長室に充満する、重い空気。
それに抗う様にドゥラは続ける。
「それから発掘は一旦打ち切り、ドルワームに運び込むわけにもいかないもので、カルサドラ火山地下に仮設の研究施設を作り、フィズルの主導のもと魔神兵の解析、修繕にあたりました。私も定期的に視察を行っていたのですが…」
「そこから先は、クエストで受けたとおりか」
研究員が施設の入り口を封鎖、ドルワームの財産たる古代遺産とともに立てこもっている。
基本は説得、難しいようであれば少々強引にでも対象を拘束し、古代遺産を確保してほしい。
あくまで極秘裏に、一流の冒険者に対し送られた依頼文。
ダンがそれを引き受けた結果が、先日のカルサドラ火山での一件であったという訳だ。
「…最初に知らせておいてくれりゃあ、ここまで大事にならなかったかもしれねぇ」
「申し訳なく思っています」
「その言葉は、向ける相手が違うな。出るぜ。クエストは現在も継続中だ」
「よろしくお願いします」
すっかりメンテナンスを終えた百発百中の杖を手に取ると、ダンは院長室を後にしたのだった。
続く