「これで良し」
対岸からゆっくりと駅を目指してきたフィズル・ガーZ。その必要以上に大きな姿と異様は、目にした者に恐怖を抱かせ、ここへ至る道すがら、フィズル・ガーZを阻むものは無かった。そしてすっかり駅の周辺にも人影はない。目視だけでなくフィズル・ガーZのセンサーを通して、フィズルは最後の周辺チェックを行う。問題ないかと思われたその時、ピコッという警戒音とともに、操縦席パネル中央の球形レーダーに光点が浮かび上がる。レーダーに示された方向へ目を向けるフィズル。
「んっ?なんでグレネーどりがこんなところに?」
グレネーどりの生息地域はこの辺ではないはずだ。それによく見ると、その背中にキーボードのような複数のボタンが付いている。転生体だろうか?訝しむフィズルをよそに、グレネーどりはそのまま駅の近くを周回し始めた。
「まあいい。モンスターならかまうまい」
作業に戻ろうとしたフィズルに再度、レーダーが接近者を告げる。
「…マージン。懲りない奴だな」
走り寄ってくるのはマージン。ガシャガシャと音をたて、その後ろにさまようよろいが続いている。しかし、さまようよろいは剣と盾を持っているものではなかったか?それに、随分と色合いが異なるようにも見える。不思議に思うフィズルだが、しかしてマージンがさまようよろいと手を組んだところで、どうとなる訳でもない。
と、その時。
「ピピッ、ピピッ、カンセイ!カンセイ!!バクダン、カンセイ!!!」
グレネーどりの電子的な音声がヴェリナード駅に鳴り響く。駅の周りを周回していたグレネーどり、へいはちくんは、さえずりながらマージンのもとへ飛翔した。
マージンは爆弾以外にも短剣を武器とする。だが、彼にはこれといって短剣にこだわりはない。発破に際して破損してしまう事が多いからだ。だが、一つだけマージンの使う短剣に、共通する特徴がある。それが、グリップ下部の起爆スイッチだ。しかしそれは、普段のギガ・ボンバーとリンクするものではない。ある特別な時にだけ連動するもので…
「発破接続(ブラスティング・コネクト)!!」
逆手にナイフを握ったまま振りかぶった右拳を、へいはちくんの尾っぽのあたりを殴り飛ばすように突き出した。小さな爆発音とともに、ガチャガチャと音をたて、へいはちくんはマージンの右腕と合体する。
「へいはちくん、キャノンモード!!」
グレネーどりは、もともとメタッピーと近しい種族。そのボディには使われないまでも、魔導砲の機構が残されていた。それを応用し、へいはちくんはハクトのチューンナップによって、簡易砲台としての機構を有する、お手製の特殊爆破兵装となっているのだ。
「正真正銘、これがアニキに捧げる最後の爆弾だ。材料が材料だからな。お代は高くつくぜ」
スーパーキラーマシンを相手にした事がある冒険者なら分かると思うが、グレネーどりは地味に重い。片腕でやすやすと支えられるものではないのだ。へいはちくんも羽ばたき、マージンの負担を減らそうとはするものの、それがまた狙いを定めるのを困難にしていた。マージンは歯を食いしばり、がっしと左手で右の二の腕を掴み、フィズル・ガーZを睨み付ける。そして、照準が定まった刹那。
「女王陛下誕生日おめで砲(ハッピーバースデイキャノン)!!スイッチオンヌ!!!」
続く