「どうだハクト。父さんのこと見直しただろう」
「そうだね。キーエンブレムは忘れるくせに、古代の超兵器を破壊できるほど爆弾積み込んでたなんて、ホントに感動したよ」
「そ~かそ~か、はっはっはっ」
ミイラ男の如く包帯グルグル巻きのマージンと、嫌味を理解できない父に呆れ果てるハクトの姿が、すっかり夜を迎えたヴェリナード城の展望室にあった。事態を解決した功績をたたえて、特別に招待されたのだ。フツキも展望室に招待されていたのだが、ディオーレ女王の誕生日は昨日であるものの、マスター・アラーニャから特別にバースデイブレンドを振る舞ってもらえることになり、一人酒場に向かっている。
「いいか、絶対に酒場に近づくんじゃないぞ。いや、城を出るなよ?わかったな、マージン。ハクト君も頼んだぞ?マージンをちゃんと見張っていてくれよ?」一度バースデイブレンドを無為にされた悪夢は未だにフツキの脳裏にチラついている。視界にとらえられる限りは、マージンの方を監視しながら後ろ向きに進んでいくフツキの姿は、申し訳ないがとても滑稽であった。
「そろそろだね、父さん」
「ああ、そうだな」
ヴェリナードの夜空を見上げる2人。視界の先に、大輪の花が咲く。
「いや~いろいろ脱線してしまったが、これで」
「「クリア!!」」
「だな」
「だね」
鮮やかな花火をバックに、親子は拳を突き合わせ、クエストの終了の達成感を分かち合うのだった。
緊急事態を乗り越え、『ディオーレ女王陛下、誕生日ずれちゃったけどおめでとう祭』に浮かれるヴェリナード。花火の光に照らし出される、喧騒に満ちた街並みの中に、やや場違いな、荒野の似合う服装を身にまとう一人のオーガの姿があった。
「まさか、既にケリがついてるとはなぁ」
ダンには事態に出遅れた、という自覚はあった。だが、まさかあの代物を処理できる腕の持ち主が、自分以外にいる事に正直驚いた。しかも、昔の縁でユナティから顛末を聴き出したところ…
「これが魔法じゃなく火薬の仕業ってか。ワクワクするねぇ。爆弾工作員(ボム・スペシャリスト)、マージンか。俺をタダ働きさせやがって。覚えておくぜ」
魔法戦士団の実況見分の為、貼られた黄色い立ち入り禁止ロープの向こう側。先日ダンが傷一つ付けられなかった獲物が、文字通り木端微塵になっていた。
「いつか、デカい仕事を任せられるかもしれねぇ。クックックッ…」
ドルワームで待つドゥラへ報告する為、踵を返すダン。
自身で依頼を果たせなかった以上、今回ダンが受注したクエストは失敗だ。しかし、代わりに面白い縁を手に入れた。愉悦に緩む口元を、おさえることができない。これだから、誰もが冒険をやめられないのだ。
そしてこの縁が、マージンを新たな騒乱へと導くのだが、それはまた、別のクエストのお話。
~Fin~