一方現代、とあるプクランド大陸の港町。
魔物を狂暴化させる薬物が詰められた樽が、次々と船に積み込まれていく。
「リーダー、どうする?」
その様子を双眼鏡越しに見つめる一人のドワーフの姿があった。
表向きは妖精の粉を輸送するという名目。
ご丁寧にこの船舶は、輸送先であるメギストリスの許可も得ている。
正規の輸送品を隠れ蓑とし、堂々と危険物の密輸を行っているのだ。
ゆえに、大陸に囚われず犯罪に対し自由な介入権限を許されている身であっても、いきなりの突入は憚られる。
しかし、思い悩む必要は無い。
彼の隣には、いつだって正しい判断を下す聡明なリーダーがついている。
…はずだった。
「…リーダー?」
いつもであれば即答で返事が返ってくるはず。
不審に思い、双眼鏡でずれたメガネを直しつつ振り返った優しい面立ちのドワーフの男は、名をネコギシといった。
「えっ?」
残念ながら、アストルティアの平和を脅かす敵はとても多い。
ドルブレイブの面々は、状況に応じて戦力の分散投入を行い、これに対処していた。
この場には、ネコギシとドルブレイブのリーダーたる、セ~クスィ~が2人でやって来ていたはずだった。
「一体どこへ…?」
リーダーが和を乱す行動をとるという事態が、あまりにも経験が無さすぎて、というよりは過去皆無であったため、戸惑うネコギシ。
そのとき、高らかに聴きなれた声が鳴り響いた。
「ドルセリン!!チャージ!!!」
いつのまにやらマストの上、風に赤髪をなびかせ、高らかに宣言するセ~クスィ~の姿があった。
「えええええええええっ!?」
ネコギシたちに支給されている<魔装>。
それはドルセリンをエネルギーに装着者の勇気に感応し、抜群の戦闘力を誇る特殊環境用スーツとなる。
「魔・装・展・開!正義を照らす情熱の炎、アカックブレイブ!!」
相当離れた場所であるというのに、リーダーもといセ~クスィ~の声はネコギシの耳朶を激しく打つ。
魔装の発動の輝きが収まると同時に、見慣れた赤を基調としたシルエットが浮かび上がった。
上半身を覆う濃紺のボディアーマーに、金色の脚部ブーツ。
背中には女性には不釣り合いにも見える巨大な2対のハンマー。
セ~クスィ~の本気の戦闘スタイルだ。
正直このままずっとあんぐりと口を開け、想定外の事態に思考を放棄したい所だが、生真面目なネコギシはそうもいかない。
「えっ、ええと、ドルセリン・チャージ!魔装展開!!水底に咲き誇…ああもう、以下略!ダイダイックブレイブ!!出る!!!」
アカックブレイブのそれと近いオーラを放ちながらも、ネコギシの魔装展開した姿はオレンジを基調とし、スライダークを模したようなヘルメットに、ライダースタイルのズボンと、その全身は大きく異なる。
この違いは、魔装が使用者の勇気に反応し、それぞれに応じた姿を構成することに起因する。
そして、それはネコギシの戦闘スタイルとも密接にかかわっていた。
魔装展開とともに生成される、彼らドルブレイブの専用武器、魔装具。
セ~クスィ~の背中のそれとは異なり、ネコギシの魔装具は…。
「間に合ってくれよっ」
展開されたエアボード型魔装具に飛び乗り、アカックブレイブのもとへと全速力で走らせる。
射程距離に入り次第すぐに投擲できるよう、ブーメランを構えるネコギシことダイダイックブレイブ。
しかし、その活躍の機会は無かった。
「アカックダイナミックブレイク!!」
マストからそっと飛び降りるように身を投げたアカックブレイブが繰り出す、2つのハンマー型魔装具によるシンプルな叩き付け攻撃。
左右一対の魔装具で殴る、ただそれだけ。
しかしそれはセ~クスィ~の鍛えられた腕力、そして、一本のサイズがセ~クスィ~の胴を上回るバカげた魔装具のサイズ、最後に魔装によるパワーの上乗せが三位一体となることで、まさしく船舶を鯖の如く折り、大きな水柱を噴き上げたのだった。
続く