「すまない、つい…」
一件爆着した波止場にて、オルフェア警察機構の用意してくれた毛布にくるまるセ~クスィ~とネコギシ。
船を折りそのまま着水したセ~クスィ~はもちろん、拡散した水柱で、ネコギシもずぶ濡れの状態だった。
二人ともすでに魔装は解除している。
「いや、いいんだよ。俺の仕事が少なく済んだしね。でも、打ち合わせはしてほしかったな」
口から噴水の如く海水を吹き出しながら担架で連行されていくプクリポの犯罪者たちを横目に、独断専行を恥じてうなだれたセ~クスィ~を詰るような会話をしながらも、その実、先日に引き続き、リーダーの素の部分を垣間見た気がして、ネコギシは嬉しく思っていた。
それは、ドルブレイブの秘密基地にて、セ~クスィ~がオーガ女史の集う夜会に参加した翌日の夜の事。
「1日でいい、もう一度、休暇をもらえないだろうか?と、とも…コホン、友達の家に、招待されたんだ」
その日朝からずっともじもじと、言いたいことを言い出せない思春期の少年少女のような、普段のリーダーらしからぬ様相を呈していたセ~クスィ~。
もしやメラゾ熱にでもかかっているのではあるまいか?
心配を募らせていたドルブレイブメンバーに告げられたセ~クスィ~の発言は、ある意味、彼らがずっと待ち望んでいた言葉だった。
もちろん、アストルティアの平和を守ることは何よりも大事な使命である。
だがその為に、リーダーたるセ~クスィ~はあまりに多くの事を犠牲にしているように、仲間たちの目には映っていた。ヒーローにだって、人並みの生活を謳歌する権利、いや、義務がある。
セ~クスィ~が今回、思わず解決を急いでしまった理由は、そこにつながる。
もう間もなく、彼女はドルブレイブ結成以来初めての、長期(本人いわく)休暇に入るのだ。
頑なに1日で済ませようとする彼女に対し、1か月は休ませようと博士も含め5人がかりで挑んだ総力戦は、はたして1週間という形で決着をみた。
全員の力を合わせる必要のありそうな大きな敵、犯罪の気配は幸いなく、このタイミングであれば、他のメンバーで補い合える算段が付いた。
というより、メンバー総出で、無理やり付けた。
「お友達ていうか、海底離宮で共に戦ったマージンの家に行くんだっけ。休暇、楽しんできてねリーダー」
ネコギシの脳裏に、導火線に火のついた爆弾を嬉しそうに睨め回す帽子の男の顔が浮かぶ。
とても信じられないことだが、件の危険人物は結婚しており子供まで居て、さらにはその奥方は、セ~クスィ~の友達だという。
まあ、考えてみても到底理解が及ばない事というのは、世の中ままあるものだ。
「ああ、ありがとう」
犯罪者の引き渡しの立ち会いは、このままネコギシが引き受けてくれることになっている。
やわらかな仲間の笑みに送り出され、セ~クスィ~はわずかな旅の荷物を取りに、秘密基地へと歩みを向けたのだった。
翌朝一番便の大地の方舟。オーグリード大陸はグレン領へ向かう車内に、セ~クスィ~の姿があった
「うん、うまい」
かの賢者ホーローも愛したというシュウマイ弁当に舌鼓を打ちながら、車窓からの景色に目を向けるセ~クスィ~。
祝福するような蒼天の青空は、これから彼女を巻き込む騒乱の気配など、微塵も感じさせないのだった。
続く