「どうでしたか?」
早速といった感じで、もはや見慣れつつあるユナティと共に立つ、もう一人のウェディの女性がマージンに声をかける。
「別に同郷だからって、庇い立てしてる訳じゃない。アニキは白だよ、アスカ副司令官」
「ここでは少佐、です。まあ、お好きにお呼びください、マージンさん」
魔法戦士団の布地中心の赤い正装と異なり、マージンに副指令官、と呼ばれた女性は、青を基調とした鎧姿に身を包んでいた。
マージンをこの度ヴェリナードに招集したのも彼女である。
ヴェリナード王国軍に所属する、アスカ=バンデ・ヒルフェ。
海底離宮突入の際には、第一部隊副司令官としてその辣腕を振るい、マージン含め多くの仲間とともに戦った。
そして、彼女は今、先だってのフィズルが引き起こした騒乱の後処理を行っていた。
厳密に言えば、厄介な仕事を押し付けられた形であるのだが、それでも意に介さず、全力を尽くすのが彼女の人徳のなせる業、異例の若さで少佐にまで引き立てられている所以でもある。
「扉の残骸も見せてもらったけどさ。恐らく、鎖ごと宝箱を切ったのも、同じ得物だと思う。フィズル・ガーZは爆弾しか攻撃手段を持ってなかった。こんな鮮やかな断面にはならない。アニキが携行するような武器を持ってたとも思えないしね。というか、アニキは自分の体使った戦闘はとても無理だし」
マージンは先の写真をアスカに返しながら、壊れた扉の様相を思い出す。
あれは、鋭利な刃物により切断された痕。
あくまでも、フィズルは技術屋なのだ。
自身の記憶と14年のブランクがあったとて、そんな芸当はとてもできるわけがない。
「そうですか…。困りましたね。手がかりゼロです…」
アスカはフィズルが事件を起こした際、彼が盗み出した金品の確認を行う中で、行方の知れない物品の存在に気付いたのだ。
それが先の写真の宝箱である。
しかし、本来宝物庫の中身、ヴェリナードの財産そのすべてが目録にあるはずなのだが、そもそもがあの宝箱は宝物庫とは全く関係なく、ヴェリナード地下の留置施設とはまた別区画、ディオーレ女王すらその扉の鍵を知らない謎の部屋の中にあった。
ゆえに、現状何が無くなったのかすら、分からない状態なのだ。
「というわけで、帰っていいかな?」
海底離宮で目にした、ティードに負けずとも劣らない上質な爆弾が、マージンを待っている。
ウキウキが止まらないマージンであったのだが。
「申し訳ない、別件だが、気になる事があってな。アスカの用が終わったなら、魔法戦士団の方に協力してもらいたい。ついてこい」
それではまたな、とアスカに対し軽く挨拶を交わすと、魔法戦士団の詰所へと歩みを向けるユナティ。
揃い踏んだ所を初めて見たマージンだが、二人の仲はとても友好なように思える。
魔法戦士団の副団長が、ヴェリナード王国軍の若きエースをヘッドハンティングしようとしているという噂は、あながち間違いでもないのかもしれない。
「ほんと、勘弁して」
天を仰ぐマージン。
胸の爆弾の一件があって以来、自分に対してだけ、口調がいまだにやや冷たいユナティの後ろを、とぼとぼとついていくのだった。
続く