「とりあえず、その縄は何なの!?」
魔法戦士団の応接室にて。
立派なソファーがあるにもかかわらず、一画に用意された武骨なパイプ椅子に座らされ、挙句縛られそうになったマージンが慌ててユナティを制止する。
「あっ、いやその、つい、な。隙があればと思って」
ユナティの視線が自らの腰に下げた片手剣に向かったのをマージンは見逃さなかった。
「隙があれば処刑しようとしてるっ!?」
「冗談だ。本題に入ろう」
どう見ても本気だった。
ツッコもうとしたマージンだが、追及しても自分に甲斐がないのでおとなしくユナティに従い、あらためて案内されたソファーにかけ直す。
「ユナティさんの用件も、やっぱりフィズルのアニキに関わる事なのか?」
「そうだ。あの日、お前に話したな。死者はゼロだ、と」
「ああ」
「確かに死者はいない。だが、行方不明の者が複数いる」
「…瓦礫に埋まったとか、か?」
それはマージンにとって、あまり考えたくはない話だった。
だが、物事に絶対はない。
あの日、爆破されたヴェリナードの渡し場にて、フィズルがいくら事前に避難を促したつもりでも、逃げ遅れた人が居たかもしれない。
「いや、そうじゃない。渡し場の復旧の際にも、幸い遺体が見つかる事は無かったよ」
「ふむ?それでは?」
となると、マージンにもよく話が見えなくなってくる。
「行方不明になっているものは総数3名」
ユナティがテーブルに3つの資料を並べる。
「家族の証言によれば、皆、当日はまず家にいて、渡し場爆破の際と思われる爆音で慌てて避難した。そして気が付いた時には、連れていたはずの我が子が居なくなっていた、という事だ」
それぞれの資料の一番上にクリップで止められた写真。彼らは皆、まだ年端もない子供たちだった。
「当初は我々も、迷子の線で捜索していた。しかし…彼らは未だ見つかっていない」
ディオーレ女王陛下生誕祭からの経過日数に加え、いなくなったのは1人ではないのだ。
当り前だがただの迷子は有りえない。
「これといった子供たちの共通点も見つかっていない。アスカ同様、こちらもすっかりお手上げの状態なんだ」
「消えた宝箱の中身に、子供達、か」
「タイミングが揃いすぎている。王国軍も魔法戦士団も別々の出来事と考えているが…私とアスカは繋がりがあるのではないかと睨んでいる」
「まあ、そう考えるのが自然だな」
「不可解な点はまだある。お前の見立てでは、フィズルには嘘や隠し事は無い、という事だったな?」
「ああ。アニキは、腹芸ができる奴じゃないよ」
その点において、マージンはフィズルを信用している。
「フィズルの話がすべて真実であると仮定すると、だ。フィズル・ガーZの復元・改造にあたってのフィズルの資金源。親切にも無尽蔵のゴールドを差出し、カルサドラ火山からあの巨体をキュララナビーチまで飛ばした、バシッ娘システムというあきらかに常識の外にある技術を提供した人物」
「見知らぬエルフの老人だったって話だな」
「そうだ。何の見返りも求めず、そんなバカげた話はない」
「そいつが、今回の黒幕?」
「可能性は極めて高いと思う。何か、心当たりはないか?」
「残念ながら、まったくないな」
マージンとフィズルの縁の始まりともなった、傭兵団サンドストーム絡みの既知の人物であれば、フィズルは話したはずだ。となれば、マージンには思い当たる節もない。
しかし、攫われたのは全て幼い子供。マージンの脳裏に、ハクトの笑顔が浮かぶ。
自分も一人の父親として、何かできる事があれば協力したいものだ。
そう思い、マージンはテーブルの資料に手を伸ばす。
「そうか…。ご足労、すまなかったな。また何か、聞きたいことができれば…どうした?」
これ以上話すこともない。
酒場に預けてある捜査協力費を受け取って、帰って構わないぞと告げようとした所で、突然食い入るように3つの資料のページを乱暴にめくり出したマージンの姿にユナティは驚いた。
ページ的に、その辺りには、各家庭の家族構成が載せられていたはずだ。
「ユナティさん、アンタらの目は節穴かよ?」
「何か気付いたのか!?」
「全ヴェリナード住民の戸籍、どこに保管してる?」
「地下の保管庫の方だが、って、おい!そんな機密書類、部外者に閲覧できるわけがないだろうが!待て!!」
ユナティが制止する間もなく、蹴り飛ばすように扉を開き、飛び出していくマージンであった。
続く