スライダークを模したヘルメットに、手足は竜を想わせる荒々しく隆起したトゲに包まれ、全身をつるりと包むスーツには金色の荒々しい文様がなまめかしく走っている。肩と腰からはそれぞれマントとも羽根とも取れる意匠が飛び出し、より攻撃的なシルエットを形造っていた。
そして、一見身軽そうに見える姿であるが、背中に背負う大鎌が異様を加えている。
「排除を開始する」
あくまでも淡々と、機械のように告げると大鎌を構える謎の戦士。ググッと腰を落としたのち、矢の如くマージン達へ向けて突進してきた。
「おおっと!!」
民家の壁を支えに手をつき、すんでの所でジャンプして、横薙ぎの一閃をかわすマージン。
「はっ!!」
問答無用とあらば致し方ない。得物を振りきった体勢、今がチャンスと見たユナティが謎の戦士に切りかかる。しかし不安定な体勢から強引にも思える動きで姿勢を立て直すと、大鎌をぐるりと一回転させて楯のようにユナティの剣をはじく。
そのまま軽々と大鎌を振るい攻撃に転じる謎の戦士。片手剣のペースで繰り出されるラッシュ、その一撃一撃がとんでもない重さを孕んでいる。
「ぐっうっ!こ、これは」
まずい、押し負ける。ユナティがそう思った瞬間、半ば横合いからのタックルで突き飛ばすかのように、強引にアスカがスイッチする。右手のレイピア、左手のバックラー。それらを巧みに使いこなし、一撃一撃を確実にいなしていく。
ガツン、ガツン、ガツン
それはもはや、武器と武器がぶつかり合うよりは、巨大な鋼の船舶がぶつかり合う様な轟音を響かせながら、謎の戦士とアスカの応酬は続く。
「…っ!今です!」
一際上段からの振り降ろしをバックラーで受け止めると、大鎌の腹をバックラーで吸着するが如く、引き寄せて大きく横に払いのける。わずかながら謎の戦士に隙が生まれたように見えた。
「心得た!ギガスラッシュ!」
アスカの脇をすり抜けるようにユナティの剣技が走る。魔法を剣にのせた必殺の一撃。しかしてそれもまた、空中に固定されているかの如く水平に構えた大鎌を支柱に、ぐるりとバク転してかわす謎の戦士。
「どういう運動神経してやがる」
かの高名なナブレット率いるナブナブ大サーカス団の軽業師であっても、ここまでのアクロバティックな動きが取れるだろうか。敵の予想をはるかに超える動きに、すっかり蚊帳の外のマージンは舌を巻く。
「アレをやりますよっ!ユナティ!!」
「あれって、あれ!?まだ一度も上手くいってない!あと一度くらいしか、大技は使えないわ!そうしたら…」
いかに魔法戦士団副団長とて、大技の連発は体がもたない。先のギガスラッシュの後、既に足さばきに不調が出ていることを、ユナティは苦々しく感じていた。このペースで大技を連発すれば、違和感はさらに決定的なものになり、戦闘の継続は困難になるだろう。つまりは、次の機会を無駄にしては、勝機が無くなる可能性が高い。
「私が絶対に合わせます!信じて!!」
しかしアスカの、友の力強い言葉は、そんなユナティの不安を容易く払拭した。ユナティの瞳に、より一層の闘志が宿る。
「おいおい、何だかわからんが。隙を作れば良さげな感じか?任せろ!ちょうどいい立ち位置だ」
懐から出した小型スイッチをポチリと押すと、ちょうどスライダークメットの横っ面に直撃するような感じで、壁から爆炎が噴き出した。予想だにしない完全な不意打ちに、流石の謎の戦士もよろめき、大鎌を支えに膝をつく。
マージンは先ほど大鎌をかわしつつ、壁に特製の爆弾を貼り付けていた。街中、しかも真昼間という事もあって、チョッピ荒野で調達したバザックスの甲羅を元に作った筒、底にはストーンマンの破片を使い、筒に押し込められた爆風が集中して一方向へ吹き出す、いわば狙い撃ち可能な特殊爆弾を用いたのだ。
「名付けて指向性ギガボンバー。こういうのも、あるんだぜぇ?」
「さすが爆弾魔!よくやった!!」
「爆弾工作員(ボム・スペシャリスト)だっつうの!さぁ、かましてやれ、ユナティ!副司令官!!」
そればっかりは譲れない部分を訂正しつつ、ユナティとアスカの背中を見送るマージンであった。
続く