岩肌をくりぬいて作られた、グレン城下町の駅に黄色い車体が滑り込む。
シューッと音を立ててゆっくりと停車した大地の方舟から降り立つのは、まだ昼前という事もあってか、長身のオーガの女性ただ一人だった。
「懐かしいな」
耳をすませばホームを照らす篝火のパチパチという音が心地よい。
ドルブレイブの任務を除き、故郷であるグレンを訪れるのはいつ以来だろうか。軽いノスタルジックに浸りながら歩くセ~クスィ~を、呼び止める声がした。
「お客さん、いらっしゃい!」
町へと続く階段の中腹には、駅の利用客に向けた売店がある。
緑の服に身を包む売店の売り子リンマの声は、ピーク時ともなれば雪崩の如く押し寄せる人の波にも飲まれぬよう、凛として大きく響く。
その清々しさが、セ~クスィ~にはとても好ましかった。
「ああ、こんにちは」
「何かおひとつどうだい?」
「そうだな…ドルセリンを一つもらおうか」
黄色の小瓶を受け取り、代わりに500ゴールドを手渡すセ~クスィ~。
「まいどありっ。またいつでも来ておくれよ!」
リンマに笑顔を返し、再び階段を上る。
大きな開き戸をくぐると、懐かしい故郷の風がセ~クスィ~を包み込んだ。
駅同様、剥き出しの岩肌に囲まれた赤い街並み。
その荒々しさも好ましい。
「しまった…。なんということだ」
グレン城下町に降り立ったところで、セ~クスィ~は自分のミスに気が付く。
友人の家によばれる際には、何か手土産の一つでも用意しておくべきではないか。
幸いにして、住宅地へ続くゲートは町の西側。
ドルブレイブの大きな作戦の前であっても、緊張で眠れないといった事象とは無縁のセ~クスィ~であったが、昨晩は何故か眼が冴えてしまい全く寝付けず、予定よりはるかに早いグレンへの到着となっている。
それゆえ幸いにしてティードとの約束の時間にはまだまだ随分と余裕がある。
幼少時、父と速さを競ったグレン城へ続く長階段を上りきり、そこからぐるりと円を描いて続く商店街に目を通す事にした。
「これはなかなかの業物だな」
友、ティードへのお土産の品を選ぶというのに、ついつい防具や武具に目が行ってしまう。
いやいや、まず先頭に武器防具屋があるからいけないのだとかぶりを振り、自身の責任を否定するが、年相応のセンスがないだの、渡世に疎すぎるだのと仲間から言われ続けた過去がよぎる。
ここで選んだお土産のチョイス次第では、そんな仲間からの風評被害も払拭できるのではないか。ふんすと鼻を鳴らすと、セ~クスィ~はあらためて気合を入れ直し、店を巡り始めるのだった。
続く