もう既に何往復とグレン城下町を彷徨ったが、いっこうにお土産は決まらない。やはり贈り物を選ぶなど、私には荷が重い事なのだろうか。
いや、決してそんなことはないはずだ。
グレン駅で購入したドルセリンの瓶を握りしめ、決意を新たにするセ~クスィ~。
そして、出立にあたり、ネコギシから送られた言葉を思い出す。
『お世話になる側だからこそ、なお相手を想う事を忘れずに』
先日のオーガ女史の集いにおいて、決して少なくない時間、実に様々な事をティードと語らった。
その記憶の中から、贈り物に最適なものを探るセ~クスィ~。
これからお邪魔することになるマージン邸は、海底離宮の際の報奨金で、魔法建築工房「OZ」の手により建てられたものだという。
という事は、まだ建立から一年は経っていない。
世の中では、ご新築祝いなるものがあると聞く。
「閃いたぞっ!」
木工職人のもとへ全力でダッシュするセ~クスィ~。
「店主殿!これを頂こう!!」
しかして、あれでもないこれでもないと、実に3時間ほどの時間をかけ、ティードへのお土産にセ~クスィ~が選んだ物は、ごうけつぐまの木彫りの置物であった。
とつげきうおを口に咥えた荒々しい姿が、匠の手によって大胆に造形されている。
貰って困る贈り物に堂々ノミネート、しかもその中でも長年に渡り不動の地位を誇る逸品を迷いなく選んでしまうあたり、セ~クスィ~の汚名返上の日は、果てしなく遠いようだ。
両手でようやく抱えられるほどの大きな置物を抱えて、ホクホク笑顔を浮かべるセ~クスィ~。
これで無事、友人の家へ向かう準備は整った。
ほんの少し、緊張が和らいだその瞬間、セ~クスィ~は天から舞い降りる淡い光を視界にとらえた。
「あれは!?」
ルーラの光自体は見慣れている。
だがしかし、その着地点に違和感がある。
あのままの軌跡では明らかにグレンの中心部に落ちる。
ルーラストーンを用いての転移であれば、グレン城下町の入口、落下地点における人との激突を回避できる、安全な位置に向かうはずだ。
そっと置き物と旅の荷物を道の端におくと、全速力で落下の予想地点目掛けて走り出す。
「間に合ってくれ!」
近づくにつれ、もう一つ違和感に気付くセ~クスィ~。
ルーラストーンによる移動にしては、速度が速すぎる。
あのまま地面に落着すれば、ただでは済まない。
「離れて!皆、離れるんだ!道の隅へ!」
幸いにも、落下地点へ先回りすることができたセ~クスィ~。
こんな大衆の面前では、魔装展開するわけにもいかない。
生身のままで受け止めるしかない。
通行人を避難させると、頬を両手ではじき、気合を入れる。
「よしっ!」
幸いにして、飛翔体はグレンの岩肌に渡された天蓋に引っかかり、その落下速度を大きく減衰させた。
とはいえ止めきれるものではなく、突き破って落ちてきたそれをなんとかキャッチするセ~クスィ~。
「この子は一体…」
それは、透き通るような銀髪のエルフの少年だった。
黒のチョーカーに、簡素な服に身を包み、あまつさえその衣服は大きくバツの字に切り裂かれて無残な様相を呈している。
意識を失っている様子の少年を抱えたまま、理解できない状況に、ただただ困惑するセ~クスィ~であった。
続く