「おかえり。随分と遅かったじゃないか」
崩落した天井から差す光に照らされた、紫色のスライダークメット。無造作に地面に転がるそれから、しわがれた老人の声がダイダイックブレイブに語りかけてきた。
「どうせ全部見てたんだろう?ふざけるのも大概にしろ」
「ほっほっほっ。その通り。全て記録させてもらった。これでさらにワシの人形は強くなる。感謝の一つも言うてやろうか?」
「ああ、是非とも苦労を労ってもらいたいね。ついでに、狙いの一つも教えてくれるとありがたいんだが?」
憎まれ口をたたきつつ、ついには支えきれなくなった自重を床に預けるように座り込む。
「なぁに、個人的な興味じゃよ。面白い技術を見かけたら、自分でも試してみたくなるもんじゃろう?」
「この悪趣味な機械人形の事はどうでもいい。なぜ、子供をさらう?」
空中を舞台に激戦を繰り広げる前。オルフェアにて仕留めた、まさに今語らっている一体は、ダイダイックブレイブが発見した際、まだ幼い子供を肩に担ぎあげていた。ヴェリナードでマージンとアスカ、ユナティが3人がかりでようやく倒した難敵を、ダイダイックブレイブが比較的苦労なく倒すことができたのは、相手が子供を無傷で連れ帰ることに固執した故でもある。わずかな戦闘時間の中で、ダイダイックブレイブは敵の不審な挙動からその事実を冷静に分析していた。「ワシは冒険者どもを甘く見るつもりはないのじゃよ。おぬしも気付いておるのであろう?」
「…あんた、俺の嫌いなタイプど直球だな。自分から情報は出さず、相手がどこまで知っているのか引き出そうとしてくる」
オルフェアは子供が非常に多い。誰でも良かったのなら、あの子供に固執したわけは何だ?すでにダイダイックブレイブは、その答えにたどり着いている。
「異種族間の混血の子供。それが狙いなんだろう?残念だったな。さっき攫い損ねた子供は、信頼できる相手に託してきた」
オルフェアには混血の子供はそもそも一人しかいなかった。敵の手から取り戻した子供はナブレット団長に保護をお願いし、今に至っている。
「構わんよ。あれはどうせ、行きがけの駄賃だ。同様のサンプルはすでに手にしている」
「貴様ッ!!」
幼い命をサンプルと言い放つ邪悪さに、吐き気を催すダイダイックブレイブ。
「あとは、人間とオーガの子供。それだけ手に入れば、事は足りる。異なる生物を拒絶反応なく一つにまとめるワシの研究。その成果を、おぬしに見せられないのは、非常に残念だよ」
この手のタイプの相手が、敵に情報を漏らす時。それは確実に、敵の命を仕留められるとわかっている時に他ならない。ひび割れたメットから閃光が漏れ出す。「さらばじゃ、ダイダイックブレイブ」
老人がダイダイックブレイブに向けた別れの言葉は、激しい爆発の光と音にかき消された。
続く