「おお…これは…凄い」
フライナに案内された一室。そこは適度な観葉植物のインテリアと優しい火を灯す暖炉に囲まれた、リビングルームだった。中央のテーブルには、所狭しと料理が並べられている。
「は、初めまして!ハクトと言います!今日はようこそ!!」
憧れの人を前にした緊張の様子を誤魔化しようもなく、カクカクとぜんまい仕掛けのようなぎこちなさで出迎えるティードの愛息子ハクトの様子をほほえましく見つめるセ~クスィ~。ハクトに案内されるまま席に座る。
室内にはキッチンスペースを兼ねた長大なカウンターが拵えてあり、その奥の壁には席の方からも種々多様なスパイスや調味料、料理だけでなく飲用も兼ねたお酒の瓶などが所狭しと並んでいる様子がうかがい知れる。
「まずは、メギス鳥の唐揚げのジャンボ玉ねぎ刻み添え。これはハクトの大好物なの。次に、細かく刻んだ豚肉、しゃっきりレタスをあわせて、ふわふわ小麦粉で作った生地で包んだ焼餃子に、ちょっと横着だけど、餃子のタネの残りで作った焼き飯よ。あとはあり合わせのお野菜で作ったサラダね」
セ~クスィ~が席に着くのを確認し、カウンターに立つティードが一品一品紹介していく。
「フライナにお任せしようかとも思ったんだけど。せっかくだから私の手料理でおもてなししたくて。でもなんだか、ありきたりになってしまったわね」
「そんなことは無い。恥ずかしながら、自炊は苦手でな。こういう、温かい料理は常々焦がれているんだ」作戦中は味気ないレーションや、それこそ眠気を抑えるために食べなかったりと、お世辞にも良い食生活を送ってはいない。このような家庭味溢れる料理はまさしくセ~クスィ~の憧れのものであった。
メラ系呪文を応用した保温システムを内蔵したテーブルの効果で、料理はまだ出来立てのような美しい湯気と温度を孕んでいる。
「ありがとう。ささ、冷めないうちにどうぞ」
「ああ、いただきます」
セ~クスィ~は促されるまま、礼儀正しく目の前のごちそうに頭を下げ、箸をとる。まずは餃子から一口。「美味しいな。皮がパリッとしていて香ばしい」
「料理に使う小麦粉は、マーちゃんの連れてる、ゆきひめちゃんっていう踊る小麦粉袋に保存してもらってるの。袋に保存しておくよりもしっかり湿気をガードしてくれるし、なんだか鮮度も長持ちしてる気がするのよねぇ。いつでも挽きたてって感じで」
「なんと。踊る小麦粉袋とは珍妙な」
「マーちゃん、そういう珍しい子見つけてくるの得意なのよねぇ。とはいえ、ゆきひめちゃんに保存しておくと、何故かたまに量がごっそり減っているのが玉に傷なのだけれど。一体何に使ってるのかしら?」
「あ~…それは…うん、謎だな」
マージンが小麦をどう使用しているか、なんとなく見当のついたセ~クスィ~であったが、言わぬが花と思いはぐらかした。
そしてふと顔をあげると、唐揚げをほおばり頬をリスのようにふくらましているハクトと目が合う。よっぽど好物なのだろう。美味しさに頬が上気している。
「ふふふ。のどに詰まらせ無いようにな」
ここには実に平和な時間が流れている。これを護る為に、日々戦っているのだ。ティードの美味しい料理とともに、幸せも噛みしめるセ~クスィ~であった。
続く