イベントを題材に小話を書きました。原型がほぼ残っておりませんが、マージンさんのツイートをベースとさせていただいております。また、百人の冒険者の中から、きみどり様とフツキ様にもキャラクターをお借りさせて頂いております。この場を借りまして、お三方に感謝を。本当にありがとうございます。もろもろイメージと異なる部分もあるかと存じますが、ご了承くださいませ。それでは。
『トラシュカの夏、緊張の夏』
「オレはな、フツキ。愛しているんだ!」
テーブルについた頬杖を、うっかり滑らさせられる程のシャウトがガタラの酒場に響き渡る。
カルサドラ火山の地熱で焙煎したコーヒーを待つ間、マージンの話をするすると右から左へ聞き流していたエルフの冒険者フツキであったが、耳をつんざく突然のカミングアウトに慌てて周りを見回すと、案の定、好奇の目線を一身に浴びる自分の姿に気づく。
「いきなり何言い出すんだこのバカタレ!」
テーブルには自分とマージンの他にもう一人。
マージンと同じく爆薬のスペシャリストとして、隠密であることを物語る漆黒をベースに、女性らしい薄桃色の和風な武具がアクセントとなっている装束に身を包むきみどりという冒険者も腰掛けているが、その彼女までもがヒューヒューと古典的に囃し立てていて、なお質が悪い。
「この感情はもはや恋に等しい!耳にしたその日から、もう頭にこびりついて離れないんだ!信じられるか?ばくだんいわが天から降ってくるなんて!」
「あ~、そういう…」
幸いにも引き続き溢れるパトスを抑えられないマージンにより、最悪の誤解は回避されたものの、依然として変なパーティー認定は免れまい。
なにせ、ばくだんいわの雨が降るという、およそ最悪の状況を耳にして、恍惚とした表情を浮かべる男がパーティーリーダーなのだから。
「噂には聞いたことがあるよー。確か、トラシュカ、だったっけ?」
一年に一度、ジュレットからお宝を求めて船が出る。バルバトスというあらくれ男の駆るその船は、決まって大嵐に見舞われ、大小様々な金銀財宝に加えて、種々様々なばくだんいわのスコールに晒されるという。
「普通、お宝に目が行くと思うんだがな」
不本意ながらもフツキの相棒であるこのマージンという男は、爆弾をこよなく愛しており、当然ながら生きた爆弾であるばくだんいわのことも狂しいほどに愛している。
それは一度戯れで、彼の妻であるティードの前で、ばくだんいわとティード、どちらをより愛しているんだ?と尋ねたとき、間髪入れずに
「ば…」
と発し、次の瞬間、
「マーちゃん?」
とだけ低く告げたティードに耳を引かれて物陰へ消えていった事があるほどに、盲目で根源的な感情だった。
「でもさマージンさん、トラシュカ行くならジュレットでしょー?何でガタラ?」
きみどりの疑問ももっともである。
ガタラの酒場で、というのはマージンからの招集であった。
トラシュカへ向かうのだとすれば、随分と遠回り、というか全然的外れである。
「よくぞ聞いてくれた。今回の俺の目的、トラシュカに現れるという珍しいばくだんいわを見てみたい、あわよくば連れて帰りたいという所なんだが…」
連れ帰るなどという聞き捨てならない単語が聞こえたが、思い返してみれば既に彼の工房にはばくだんいわが鎮座しており、もはや今更なのでスルーする。
「天に大地があるわけじゃあるまいし、トラシュカで起こる現象は、ファフロツキーズと呼ばれるものだと思うんだ」
「天からありえない物が降ってくるっていう、アレだねー。なるほど。何となくよめたよー」
「流石はきみどりちゃん、話が早い。そう、ファフロツキーズ現象だとすれば、もともと別の場所に生息していたばくだんいわが、何らかの理由で巻き上げられてトラシュカ上空まで移動しているという仮説が立てられる」
ズバッとマージンがテーブルを覆い尽くすほどのシートを拡げた。
「こ、これは!」
続く