シートを目にし、流石のフツキも驚愕を隠せない。
そこには各地域のばくだんいわの生息数が週単位で記されており、また、事細かにその数の推移にまつわる理由、天候や気温、同じ地域に生息するモンスターなどを推察した箇条書きが蟻の巣をぶちまけたようにビッシリ書き込まれていた。
「ばくだんいわは繊細な生き物なんだ。色んな理由でその貴重な命を散らしてしまう」
ぐっと拳を握りしめ、はらりと涙すら浮かべるマージン。
「色んな理由で自爆してんだろ」
「自業自得だよねー」
冷静なフツキときみどりのツッコミはその耳に届かない。大きな赤丸でビッとくくられた箇所を指差すマージン。
「しかしそんな中で毎年必ず、トラシュカ航海の時期の直前、ばくだんいわが不自然な大幅減少を見せる地域が、ズバリここだっ!」
「よっし行こう行こう。お嬢からの呼び出しもしばらく無さそうだし、付き合うよ~」
「はぁ…気乗りしない。と〜〜〜っても気乗りしない。だが、新しいボディスーツの実用試験にはいいかもしれないな」
「おお、そうだそうだ。フッキー、それ、おニューだよね?」
言われてみれば、フツキは普段マージンの見慣れた衣装ではなく、上半身のみではあるが強固そうなプロテクターに覆われたスーツを身に付けている。
「ああ、運よく、ガテリア号って言ったかな、潜水艇の予備資材が手に入ってね。防御力重視で、ちょっと以前のスーツを改良してみたんだ。お前によく吹っ飛ばされるもんだから、さぁ?」
「今回のクエストは実用試験にもってこいだな!」
「お前さ、ちょっとは嫌味ってものに理解を…いや、いい。もう諦めた」
マージンの指差した地、カルデア山道へ向け、意気揚々?と進軍するマージンパーティーであった。
「おじさん、ありがとーねー」
目的のカルデア山道。幌馬車から降り立ち、ここまで快く乗せてくれた太っちょの商人に、口元はやはり黒に染めたマスクで見えないまでも、きみどりは満面の笑顔で手を振る。その背後では、早くも作戦会議が始まっている。
「ストレートに考えればトラシュカに行くのが一番いいんだ。それだってのにあえてこの場所を選んだからには、数以外、他にも理由があるんだろう?」
「もちろんさ」
さっとカルデア山道の地図を広げるマージン。
「ここと、ここだ」
「え~?なになに?よくわかんないなぁ」
マージンが地図上指し示したところは、カルデア山道の南側、カルデア洞穴の入り口でもある岩山と、そこから少々北上した場所にある岩山だった。
「地形、か?」
「おー?フツキさん何か分かったの?」
「この2か所、こう、なんというか、ぐるりと円を描くように地が削れている箇所だ。ひょっとして…」
「そう!冴えてるなフッキー。この地形は恐らく、風で削られてできたに違いない」
「ガタラにだって、気象の研究している学者さんはいるでしょー?毎年大きな竜巻が起こってたら、気付かないかなぁ?」
「いや、有り得なくはない。モンスターが起こしたものだったなら」
「えー?モンスター?」
「聞いた事がある。紫の体色をしたキングスライムは、台風にも似た猛威を振るうことがあると。そんな類で、突発的に嵐のような天災を起こせるモンスターがいたと仮定すれば、可能性は有りえる。現に、マージンの調べが正しければ、ばくだん岩を急激に減らす何かが起こっているわけだし」
「なるほどねー」
「さて、言いたいことは全部フッキーが説明してくれたから、あとは待つだけの簡単なお仕事なんだぜ」
「それが一番つらいんだよなぁ…」
愚痴をこぼしつつ、カルデア洞穴の入り口付近、日陰となる所にテキパキと風防を組み立てるフツキとマージンだった。
続く