少年が思い出したハクギンという自身の名。そして、一面雪に囲まれた村の光景。その二つの情報を携えて、つい先ごろグレン城から戻ったばかりだというのに喜んでフライナはあらためてグレン城へと向かった。アストルティア広しと言えども、一面覆い尽くすほど雪の積もる地域と言えば、だいぶ絞られる。そして名前を思い出したこともかなり大きい進展だ。この日の夜の宴は、セ~クスィ~を迎えているという理由だけでなく、盛大に行われた。
「うわぁ凄い!母さん、奮発したね!」
「とても豪華です!」
「そうでもないわよ。食材のお魚は、ほとんど今日釣れたものだからね」
テーブルの上を見て感動するハクトとハクギンに対し、ニッコリとセ~クスィ~と微笑みあうティード。ハクトが少年の記憶が一部戻った事を告げに来て以降、ティードとセ~クスィ~はマイタウン内のプライベートビーチにて釣竿を足らし、釣果を競い合った。
「釣りにはちょっと自信があるのよね。負けないわよ、セ~クスィ~」
「なんのなんの。任務の合間に各地の釣りスポットを干上がらせた、神出鬼没の釣鬼とは私の事だぞ」
お互いに一匹釣っては追いつかれ、追い抜かれては一匹釣り返し、気付けばタライの中は魚でいっぱいに。再びグレン城での照会依頼を済ませたフライナがテキパキと今晩の宴に使用する魚を選り分けた後、残りはテーブルと同じく魔法建築工房「OZ」謹製の、マヒャドを利用した冷凍保存庫に格納した。
まず魚の首を落とす為、全身全霊斬りの構えをみせ、まな板どころかキッチンごと一刀両断する勢いで包丁を振るおうとするセ~クスィ~を、お客様はお席の方でくつろいでくださいな、とフライナが無難に収め、ティードとのコンビネーションで見事にさくへと切り分けていく。せめて何かお手伝いを、と懇願したセ~クスィ~は、炊き上がったお米を冷ます係に抜擢され、巨大ハンマーをうちわに持ち替えてひたすらに風を起こす。やがて米と混ぜられた酢の軽く鼻を突く匂いが、好ましく感じられる程度まで薄まった頃、宴の準備が整ったゲストハウスのリビングへ、ハクトとハクギンは招待されたのだった。
「さぁさ、飯上がれ。今晩のお食事は、エルトナの高級食、お寿司よ!って、もうみんな聞いちゃいないわね」
テーブル狭しと並べられた色とりどりのお寿司を、ティードの言葉を待つまでもなくぱくぱくと口へと運ぶ一同。
「あらあら。うふふ。それでは私達も、ご相伴に預かると致しましょう」
「そうね!」
ティードとフライナも、気合充分、戦場へと加わるのだった。
「!!フライナ殿、これは私が釣り上げたキングサーモンだな?しかし、何だこの、上にかけられた白いソースは!」
テーブルの一区画を鮮やかなオレンジに染め上げるサーモンのお寿司。その上にはストライプを描くように細く白い線が幾重にも引かれていた。
「卵とお酢で作った、マヨネーズというものです。お口に合いませんでしたか?」
「もんでもなふ!もってもおひすいです!」
「お気に召したご様子で何より。うふふ、そんなに一度にたくさんお口に入れなくても、まだまだございますから」
サーモンの甘みを、お酢とはまた違うアプローチの酸味が絶妙に引き立てる。3つ4つと咀嚼する前にどんどんと口に詰めるセ~クスィ~の様子を微笑ましく眺めつつ、フライナは昆布で挟んだヒラメのお寿司を口へと運ぶ。
「くぁあああ、やっぱり合うわぁ」
一方、お寿司と同じくエルトナ伝来のお米を主原料とするお酒を杯に満たし、キュッと飲み干すティード。口に残る辛みに、銀色の眩しい青魚のお寿司をあわせていく。
「これも美味しよ」
「うわぁ、ホントだ。口の中で溶けるみたい」
ハクトとハクギンはトロに舌鼓。そうしてそれぞれに、美味しい料理でお腹を満たしたのだった。
続く