「そう、そうやって構えて。いくよ」
翌日朝から昼までの時間を費やして、ハクトはハクギンにキャッチボールを教え込んでいた。ハクトが父マージンと行う中で最も好きな遊びだ。それに、マージンが相手でなければ、実際、過去一度もそんなことは無かったわけだが、ついうっかりボールじゃなくてギガボンバーが飛んでくるんではないかという不安を抱く必要がない。まさに理想的と思えたが、如何せんグローブもボールも初めて見る状態、ハクギンはハクトが投げたボールを避けてしまったり、いざ投げるとなっても明々後日の方向へ飛んで行ってしまったりと、いっこうに上手くいかなかった。しかしそういう時間もまた、楽しいものだ。早朝よりグレン城より呼び出しのあったフライナとティードに代わり、庭に出されたベンチに腰掛け、セ~クスィ~は子供たちの様子を見守っていた。
ふと視線を左腕に落とす。そこに巻かれたドラキーをあしらったブレスレット。休暇ではあるが、いざというとき連絡が取れるようにと、博士の開発した小型ドラキーメール送受信機は肌身離さず身に付けている。いささか職権乱用が過ぎるとは思いつつも、実は昨晩こっそりと、ドルブレイブの端末を用いてのハクギンの照会をお願いしようと通信を行ったのだが、如何せん未だに応答は無かった。博士をはじめ、各メンバー、並びにドルブレイブ秘密基地の通信端末それぞれに連絡は飛んだはず。ブレスレットに異常があるのか、はたまた、もしや緊急事態が進行しているのか。ティードが戻り次第、休暇を切り上げることを検討しながらも、今は子供たちに視線を戻す。
「そうそう、上手上手!」
ハクトの努力の甲斐あって、先ほどから、パシン、パシンと小気味よい音が響くようになってきていた。
「そうだ、ついでにこれも覚えておこう!」
何度かボールが行き交った後、ハクトがハクギンに走り寄り、軽く招くような腕の形で拳を突き出す。
「うん?」
「ほら、同じようにして」
「わかった」
見よう見まねで突き出されたハクギンの拳に、こつんと自分の拳をぶつけるハクト。
「軽く痛い。これは一体?」
「友達のサイン。父さんとは、クエストのクリアを祝いあう時にしたりするんだけど」
「ともだち…友達は…家族?」
「家族とは違うけど、う~ん…難しいな、えっと、家族ほどじゃないけど、傍にいて、一緒に遊んだり、一緒に笑ったり、一緒に悲しんだりする相手の事かな」「友達…ハクトは、ボクの友達?」
「もちろん!!」
にっこりほほ笑むハクトに、ぎこちないながらも、最初の頃を思えば奇跡の様な笑みを浮かべるハクギン。「さっ、もうちょっとキャッチボールしよう」
「わかった」
再び距離をとり、ハクギンへ向かいボールを投げるハクト。嬉しさから少し力の入った投球は、やや狙いをそれ、ハクギンの後ろの木に当たってしまう。バシンという大きな音と共に、小さな影が落下した。
「あっちゃ~…ごめんごめん!」
「ん?これは…」
続く