駆け寄るハクトよりも先に、ハクギンが落下物をそっと拾い上げる。ハクトとともにセ~クスィ~も歩み寄り、落下物を確認した。
「柔らかくて暖かい」
「小鳥の雛だな。この木に巣を作っていたのか。衝撃で落ちてしまったのだろう」
優しく包み込むように抱き上げた小さく黄色い小鳥。「元気そうですね。幸い、怪我はしていない、のかな?」
「う~む、小動物は専門外だが…」
単独任務を行うこともある兼ね合いで、一通りの医療知識もあるセ~クスィ~だが、さすがに鳥類は専門外だ。もっとも、効率の良い鳥系モンスターの絞め方なら把握はしているのだが、それを今口にするほど彼女も野暮ではない。ハクギンの両の掌の上で、まだ飛び立つことはできないまでも、羽を広げ、羽ばたこうとする様や、元気な鳴き声からは、異常は感じられなかった。
「鳥の巣は…あそこか。親鳥は留守、ほかの小鳥もいないようだな」
セ~クスィ~の目線の先、少し太めの枝と幹との狭間に、枝を折り重ねて作られた鳥の巣が確認できる。
「セ~クスィ~さん、おうちに帰してあげられますか?」
「ああ、もちろん」
まだ幼い子供の思考。ハクギンにもハクトにも、自身で育ててみたいという逡巡もなく、家へと帰してあげたいという気持ちが素直に浮かんだことに、ちょっとした感銘を受けながら、セ~クスィ~はぐりぐりとやや乱暴に肩を回して筋肉をほぐす。ポケットから取り出した鮮赤のハンカチーフは、『私のマフラーとお揃いだ、いつかきっと役に立つときがくる』との言葉とともに仲間から譲り受けていたものだ。感謝の念を抱きつつ、それを使って首回りに即席のハンモックを用意し小鳥を寝かせると、セ~クスィ~はゆっくりと木を登る。巣はそこまで高い位置ではない。危なげなく辿り着くと、そっと小鳥を巣へと移した。
「よかった」
ハクトの位置からはその姿こそ見えないが、鳴き声が先ほどまでと異なり、落ち着いた穏やかなものに変わったような気がする。
「うん、子供は家に帰るもの…そう…帰るもの…ボクも…帰らなくちゃ…」
か細くブツブツと呟くと、糸が切れたようにハクギンは膝をつき、ばたりと倒れる。
「えっ?ハクギン?ちょっと、どうしたの?ハクギンってば!」
巣の中で落ち着いた様子の小鳥をしばし見守っていたセ~クスィ~であったが、ハクトの切羽詰まった声に慌てて木から飛び降り、意識を失ったハクギンを抱えると、ゲストハウスへと急ぐのだった。
続く