ちょうどその頃、遠く離れたチョッピ荒野、アラモンド鉱山内のドルブレイブ秘密基地内にて。セ~クスィ~からの連絡が入っていることを知らせるアラーム音が、昏倒していたあの男の意識を呼び覚ます。
「ぅう…アカック…もう腹筋は…ムリ…はっ!?」
何だか昔の記憶に基づくとんでもない悪夢にうなされていた気がする。意識を取り戻したネコギシは朦朧とする意識を何とか整理した。記憶によれば、自分は敵の自爆に巻き込まれた筈だ。魔装を解いていなかったのが幸いしたのだろう。全身が煤にまみれ、場所によっては焦げて煙すら上がっているが、何とか五体満足な様子だ。許容ダメージをとうに越えていた魔装は、主が意識を取り戻したのを見取ってか、ガラスが割れるような音とともに解除される。ベルトには故障を告げるエラーランプが点灯していた。おきょう博士のメンテナンスを受けなければ、再変身は難しいだろう。「ありがとう…」
物言わぬ相棒に礼を告げ、ふと足元を見れば、紫色のスライダークを模したヘルメットが転がっていた。
「これは…爆発したはず。一体なぜ?」
立ち上がれぬまま、這いずる様にヘルメットを手に取る。記憶が途切れる寸前、確かにこの頭部から閃光と爆熱を感じた。事実、ヘルメットはあちこちにヒビが入っており、内側から何かに押し出されるようにヘルメットの破損部が歪んでいる。ひび割れた隙間から中の空ろな瞳と視線がぶつかった。
「おぅ、これはグロい」
ボスッと音を立てて中身が転がり出た。首の切断面はもとより、あちこち肉が剥がれた顔面の内側に、緑色の装甲が見て取れる。
「驚いたな…まさか、たけやりへいをベースにこんなものを作ったっていうのか?」
たけやりへいの自爆システムは、エネルギーの放出のみであり、側は残る。なるほど、道理で自爆をしても原型をとどめているわけだ。
「しかし、精巧にできているな」
ネコギシが興味を持ったのは、むしろその造形の方だった。もとにした人物がいるのだろうか。恐らく、変身する機構を持たせ、戦闘以外の潜入工作など、様々な用途で使えるようにも想定されているのだろう。流れるような銀色の頭髪に、エルフの特徴である尖った耳。だいぶ激しく傷が走っているが、それでも端正な少年の顔だ。
「端末は…よし、生きてるな」
さすがはおきょう博士謹製。火花を噴きながらも、寄り掛かって立ち上がったネコギシの操作に、基地のメインシステムが息を吹き返す。
「アクセス…人物照会…」
まだ立つのがやっとの体で震えながらも端末のカメラに偽ドルブレイブの頭部を確認させる。ほどなくして、端末に情報が映し出される。
「出身はラギ雪原…ふむ?あんなあたりに村なんてあったか?」
村の名前に心当たりがないネコギシは別の画面を開き、村の情報を検索する。
「40年前に…モンスターの襲撃で村は崩壊…なんてむごい。しかし…オリジナルの死因はそれではないのか?」
痛ましい過去の事件に胸を痛めつつも資料を読み解くと、どうやら容姿を真似られた少年は出身の村が滅びる一年ほど前から、行方不明となっていたらしい。
「村の生き残りが、襲撃してきたのは行方不明になっていた少年であったと証言…か」
ネコギシの脳裏に、しわがれた老人の声が思い起こされる。魔装を模したシステムを搭載する前から、このたけやりへいをベースとした兵器はずっと運用されていたのだろう。
「悪趣味、極まりない」
何の目的があったのかはわからない。だが、姿形を模した人形に、生まれ育った村を襲わせるなど、ネコギシには反吐が出る思いだった。
「…っと、通信が入っているじゃないか。おや、セ~クスィ~からか?」
目覚めた時に比べ随分と体が楽になってきた頃、ネコギシはようやく端末の左下に、アカックブレイブの影姿を模したアイコンが点滅しているのを見つけた。
「身元不明の少年を保護…人物照会を求む、か。休暇だというのに、まったく」
事件が彼女を放っておかないのだろう。苦笑いを浮かべながら、添付された写真を開く。
「なっ!!馬鹿な!一体どうして…。これはどういうことだ!?」
画面いっぱいに映し出されたのはセ~クスィ~の送った、ハクギンの顔写真。しかしそれは、つい先ほどネコギシが検索したばかりの、41年前に行方不明になった少年の顔だったのだった。
続く