目的の地、アクセサリー屋前は遠目でもわかるほどに多くの人が集まっていた。
「おお、さすがは遠く離れた私の工房まで話が伝わるほどの事はある。凄い賑わいですねぇ」
「うんうん、これは期待が持てる」
だがやがて近くまで訪れるにつれ、二人は様子がおかしい事に気が付く。
「あ~っ!どこ!?どこにいったのよアイツ!!!このアストルティアのアイドル、グローバルスターのリポに何て仕打ち!」
水色と白のストライプに染め上げたどうぐ鍛冶職人のスカートを跳ね上げんばかりの勢いで、人々の足元を駆け回りながら、ピンクの巻き髪をスプリングの如く揺らして怒鳴り散らしているツリ眼のプクリポ。
彼女がどうやら、お目当てのリポちゃんらしい。
あまりの剣幕に、しばしの間呆気にとられて見つめ合うマージンとブラオバウムだったが、そうこうしているうちにも着々とティードの乗る大地の方舟はヴェリナードに迫っている。
「おい嬢ちゃん、一体どうし…ぶへっ!?」
「気安く話しかけないで!」
不用意に話しかけたマージンの鼻っ面に、回転を加えながらジャンプしたリポの、腰に下げたカバンが遠心力を伴って多段ヒットする。
「まあまあ御嬢さん、落ち着いて。一体どうされましたか?」
よろけたマージンを支えつつその実盾にしながら、ブラオバウムは穏やかリポに話しかける。
「ふん。そっちの朴念仁と違って、アンタは礼儀を弁えているようね」
ようやく落ち着いたのか、腕を組み斜めに構えながら、リポはブラオバウムの問いかけに答える。
「アタシの商売道具が盗まれたの!あのみならいあくま、憎たらしいったらありゃしないわ!」
「ほうほう、商売道具が。それは大変ですねぇ」
「ああ、分かってもらえる?」
「ええ、ええ。もちろんですとも」
あくまでマージンの陰から、身を守りつつ会話を続けるブラオバウム。
「アタシはこのアストルティア全土に販路を持つファッションショップの宣伝の為に、月に一度、街のみんなに最先端のイケてるファッションを試してもらってるわけ」
「ほうほう、なるほど~」
「もちろん、数の問題で本物の衣装を貸し出すわけにもいかないから、とっておきの呪文を使ってるの!」
「なんと!呪文ですか!」
盾にされていることを不服に思いながらも、巧妙に持ち上げて情報を引き出すブラオバウムの話術にただただ感心するマージン。
「アタシが持ち歩いてるハートマークの刻まれた風船。あれがアタシのスティックなのよ。あれを使って、皆に呪文をかけて、お着替えをさせてるってわけ」
「ほほう!もしかするとそれは、まどうしの杖やセイレーンの杖の様に、スティック自体が呪文効果を持っているものなのでは?」
「アンタ、なかなか察しがいいわね!気に入ったわ!」
「恐れ入ります」
「で、ついさっき、ああっ!思い出すだけでも忌々しい!みならいあくまのチビに盗まれちゃったのよ!」
「それは大変だ!ねぇ、マージンさん!」
「えっ、ああ、そうだな!とんでもない話だ!」
突然話を振られて戸惑いつつも、何とか同調するマージン。
「これは我々が何とかしないと!」
「あら、手伝ってくれるの!?」
「勿論ですとも!我々にお任せください」
ここへきてマージン越しに顔を覗かせ会話を続けていたブラオバウムも、マージンに並び立ち、杖を掲げて高らかに宣言するのだった。
続く