「さて、風船を盗んでいったのはみならいあくま、ということでしたか」
「そうそう、ちょうどあんな…って、居たーーーっ!!」
マージンの顔面の高さまで飛びあがり、ブラオバウム達の背後を指さすリポ。
「おっ!?」
「なんですと!?」
揃って振り返るマージンとブラオバウム。
視線の先、風船に引っ張られるように宙に浮かび、ぶかぶかの緑色のローブととんがり帽子を身にまとった一つ目のモンスターの姿をとらえる。
「よっしゃ!楽勝!!」
「あっ、待って!風船さえ持っていれば呪文は誰でも使えるの!気をつけて!」
駆けだすマージンの後ろから、慌ててリポが注意をするが時すでに遅し。
「うおあっ!!??」
ピッと一瞬小さな光が走ったと思った次の瞬間、マージンの姿は一変していた。
「…なんの罰ゲームだコレ?」
リポはあまりの光景に声もなく笑い転げ、地面にめり込んでいる。
「すごい!一体どういう…衣服に効果を限定してモシャスをかけているのか?いや、この肌触り…服はそのままで周りの人間の目に映る姿形だけを変えている?マヌーサの系統か?しかしそれでは効果範囲と対象の説明がつかない。ああ、見れば見るほど素晴らしい!なんて緻密な術式!」
「あ、いや、ほんと、バウムさん、ちょっとこれまずいってホント」
大衆の面前でへそ出しルック、下着が見えてしまいそうな丈のヒラヒラのピンクのスカートに、純白のブーツと、ご丁寧に右ふとももにはフリルのチョーカー。
そして、そんな可憐な少女が身にまとってこそ美しい装束を着こんだ男の太腿やへそ周りを、鼻息荒く撫でまわすもう一人の男。
白昼のヴェリナードに、地獄が顕現したのだった。
周りの住民が声もなく後ずさる中、渦中のブラオバウムにも、みならいあくまの放つ閃光が走る。
「おっと…これは…」
マージンにもブラオバウムにも全く見覚えの無いフルフェイスの真紅の鎧。
「なんだか、これを身に付けると、厳しく規律を守らなければならない気がします」
「オレも何だか、今後ともその鎧を身にまとった人にお世話になる事は無いと思うんだが、根源的な畏怖を感じる」
「あははは、はひぃーっ、し、死ぬ」
息絶える寸前の蝉の如く手足をばたつかせて笑い続けるリポ。
マージンはたまらずリポに詰め寄った。
「ちょっと!これ、どうすんの!」
鎧に身を包んだブラオバウムはまだよい。
対してマージンの格好は、あまりにも恥ずかしすぎた。
「ムリムリ、30分は解けないから、それ。逆に30分経ったら元に戻るから、ていうか、こっち見ないで、あははっはははははは!!!」
「ちっくしょーっ、とにかく、風船回収するぞ、バウムさん!」
「了解です」
謎の赤鎧の効果か、すん、とテンションの下がったブラオバウムとともに、破れかぶれであらためて駆け出すマージンであった。
続く