「一体何の騒ぎ…うわっ」
「えっ!?きゃあああっ!変態っ!!」
「坊や、見ちゃダメよ!」
みならいあくまを追いヴェリナードを駆ければ駆けるほど、心をナマス斬りにされていくマージン。
次第にその足取りも重くなる。
「おやおや、どうされたんですかマージンさん」
冒険者とはいえ練成魔法使い、ブラオバウムとマージンとではその運動能力に大きな隔たりがある。
もちろん、マージンの方が高いはずなのだが、すっかりマージンの方がブラオバウムの2歩後ろを行く構図となっていた。
「そりゃバウム先生はまともなカッコだから良いよっ!オレはもう見るからに変態でしかないんだぜっ!」
マージンの気持ちはまあ、ブラオバウムにも痛いほどわかる。
しかし、とにもかくにも風船を回収しなければ、話が先へ進まない。
ブラオバウムは残酷に一計を案じた。
「ふと思ったんですがね。確かに30分は効果が切れない。しかし、上書きは可能なんじゃないでしょうか?」
「それってつまり?」
「もう一度、呪文を浴びれば、30分以内であっても別の衣装に変わる可能性があると思うのですよ」
「それ早く言ってよバウムさん!!おっし、ちょい待てやこらぁぁぁっ!」
気合復活、脱兎のごとく駆けだすマージンの後ろ姿に、ブラオバウムはぼそっと呟く。
「まあ、なんの確証もないんですがね」
すっかり遠くなったマージンの後姿を、えっほえっほと追いかけるブラオバウム。
「ふぅ、何でしょうねぇ、視覚効果だけのはずなんですが、どうにも、本当に鎧を着こんでいるような気がしてきました。う~ん、体が重たいなぁ。…おや?」人々の阿鼻叫喚を道標に追いかけていくと、四つん這いになってふさぎ込むマージンに出くわした。
マージンの前には二人のウェディ女性が立っている。
「彼女らは確か…」
ブラオバウムは走りながら記憶をたどる。
リポちゃん同様に笑い転げているのは確か、魔法戦士団副団長のユナティ。
もう一人は…
「おお、アスカさんではないですか。お久しぶりです」
すっかりマージンに追いついたついでに、マージンと同じく海底離宮で戦いを共にしたアスカ・バンデヒルフェに会釈をかわす。
「あら、そのお声はバウムさん?こちらこそお久しぶりです。今日はバウムさんも変った出で立ちでいらっしゃいますね」
フルフェイスのヘルメットで顔が見えない為、声と手にした杖で相手を判断したアスカ。
ヴェリナード軍に所属するバリバリの現役軍人でありながらおだやかで社交的な物腰は、ブラオバウムにとって尊敬すべき彼女の美徳だと思っている。
しかしこの場においては、それが鋭いナイフの如くマージンを切り刻んでいるようだ。
「あはははっ、マージン、何だその格好は!?私を笑い死にさせようという魂胆なのか?ふふふっ、あはははっ!!」
「ちょっと、失礼ですよ、ユナティ。きっとマージンさんにも何か理由があるんですから。ねぇ、マージンさん。一体どうして、そんな愛くるしい恰好をされているんでしょうか?きっと何か、深いご事情が…」
恐らくこのままアスカに正論を浴びせられ続ければ、すぐ先の未来でマージンの致死量に達する。
「すみませんお二人とも、ちょっと我々急いでますので。ほら、マージンさん、しっかり立ってください」
今の姿を見られたくないヴェリナード民トップ2に捕捉され、もう打ちひしがれるしかないマージンを無理やり立たせると、ブラオバウムは再びみならいあくまの追跡を再開するのだった。
続く