ゆらりとキマイラロッドが浮き上がり、ランプ部分をブラオバウム側、握りの部分をみならいあくまへ突き出すようなポジションで静止する。やわらかに広げられたブラオバウムの両の手から、それぞれ異なる色彩の呪文エネルギーがランプに向けて放たれ、同時に足元から螺旋を描くが如く、大量のようせいの粉と汗と涙の結晶が天へと舞い上がる。
「綺麗…」
幻想的な光景についついティードは息を呑み、緩んだ掌からようやくマージンが脱出した。その眼前で、ようせいの粉と、汗と涙の結晶による竜巻が勢いを増すとともに、ランプが眩い輝きを放つ。
「臨界です!その身体を重く…鈍く…錬成呪文(マホマゼル)、ペタボミオ!!」
ランプがついには爆発せんと輝きを極限まで高めた刹那、限界まで混ざり合い凝縮された2つの呪文が新しい1つの呪文となりキマイラロッドから解き放たれる。空間の歪みを伴う鈍色の閃光がみならいあくまをとらえ、ホームの床へと叩き付けた。目に見えぬ重力に押しつぶされながらも、必死に逃げようとするみならいあくまだが、その動きは重力による影響だけでなく、まるでスローモーションのように遅い。ティードのアイアンクローから逃れたマージンが、すかさず風船を回収する。
「さっすがバウムさん!これにてクリア!だぜ!」
しかしてそれで騒動が綺麗に収まるはずもなく。手始めに全然怒りがクリアしていなかったティードを前に、着せ替え効果が切れるまで土下座する羽目になったマージンであった。
やがて全ての着せ替え効果が時間経過により解消され、落ち着きを取り戻したヴェリナード。
「じゃあバウムさん、また、縁があったら」
「ええ、またいずれ、お逢いしましょう」
ブラオバウムはにっこり微笑み、ティードに耳を引っ張られながら大地の箱舟へ乗り込むマージンを見送る。扉が閉まった後、ゆっくりと大地の箱舟が線路を滑り出す。
「嵐のようなひとときでしたが、なんとも素敵なお二人でしたね。マージンさんとその御家族に、幸多からんことを(―ハピバウム―)」
去り行く大地の箱舟。恐らくはその中でなお喧嘩を続けているであろう二人に祝福呪文を投げかけ、自身もヴェリナードを後にするブラオバウム。また一つ呪文の深淵に触れ、さらには幼い頃の憧れを補完し、強い足取りで工房へと歩むのだった。
後日。
「なんの罰ゲームなんですかコレ?」
「きゃ〜、やっぱり似合うわハクト!」
お詫びの品としてリポからマージン宅に送られてきた、時間差で父母とペアルックとなるポップスター衣装に身を包み、絶望を口にするハクトであった。
~完~