「うぉおぁぁぁ!!!」
当然ながら長距離弾道飛行の慣性は凄まじく、らしくない無様な悲鳴をあげながらごろごろと何度も転がった後、巨木に激突してようやくダイダイックブレイブは停止した。その衝撃に枝葉に降り積もった雪が落ち、ダイダイックブレイブのスーツの表面の熱で溶かされ蒸気をあげる。
「これは珍客。元気そうで何よりじゃ」
「随分転送先がずれたみたいだが…結果オーライって所かな」
蒸気が晴れる前から既に、ダイダイックブレイブは状況の分析を終えていた。セ~クスィ~の通信端末はグレンのマイタウン区画を示していたが、この雪の降り具合、見渡した周りの風景、ここがラギ雪原であると確認すると同時に、ハクギンの姿と、耳に障る老人の声、そして呆然とする少年の姿、この場にいる3者の状況を冷静に分析し、次の瞬間には行動に移す。
「アカックから聞いているよ。キミがマージンの息子、ハクト君、だね」
お姫様だっこでハクトを抱え上げ、ハクギンと老人、双方から距離をとるダイダイックブレイブ。恐らく何ヵ所か、骨が折れている。だが、ロッカーから引っ張り出した強化スーツの仕様が幸いした。肩から手首、股関節から足首まで、両腕両足の側面に、外骨格とも呼べる肉体保護と筋力増強の為のフレームが仕込まれているこのスーツだからこそ、怪我を気にせず動くことができる。痛みは気合で乗り越えた。
「奴らの狙いは君だ。俺の後ろから動くんじゃないぞ」
ハクトはもはや困惑の極みだった。あの老人が何かとてつもなくヤバい、というのはわかる。老人が現れてからというもの、寒さからではない鳥肌に全身がびっしりとおおわれているのだ。そして、見知った姿とは少々異なるものの、スーツに覆われていても分かるドワーフの特徴、そして特徴的なヘルメット。目の前にいるのは、超駆動戦隊ドルブレイブの一人、セ~クスィ~の同僚であるダイダイックブレイブに間違いないだろう。何とも心強い話だ。だが、どうしてダイダイックブレイブは、ハクギンと老人を一括りに“奴ら”と言い放ち、老人に警戒を払うのと同じレベルで、ハクギンを睨めつけているのか。
「ふぅむ、お主の介入は想定しておらんかったのう。どうしたものか。なぁ?」
何故か老人はハクギンに投げかける。
「あなたは…誰だ…すごく…嫌な感じが…する…」
老人の顔は初めて見る、はずだ。だが、ハクギンの記憶の奥底で何かが引っ掛かる。激しい警鐘を鳴らしている。
「しようもない。面白そうだから試してはみたが、これではまるで役に立たん。どれ、もう一度眠らせてやろう」
パチンと老人が指を鳴らすとともに、ハクギンの意識は闇に落ちた。
続く