そしてふと、暗闇で目を覚ます。手探りで周りを確認すると、どうやら大きな管のような物の中に居るらしい。ぐっと目の前の壁を押すと、ビシリという音とともに亀裂が走り、あっさりと障害は砕け散った。
硝子の破片で腕の肉が切り裂ける感触が走るが、何故か痛みは感じない。ようやく闇に慣れてきた瞳で確認すると、傷口はうぞうぞと蠢き、見るまに傷が塞がっていく。
どうせ治る。散らばった硝子片を気にせずカプセルから歩み出る。ここが何処かはわからない。だが、外へ出る為の道筋は知っている。頭の中にもう一人、自分とは別の誰かがいるような感覚。その見知らぬ隣人の記憶を頼りに、無機質な廊下を歩く。やがて見えてくる隔壁。壁のコンソールを操作すると、ゴウンと音を立て、ゆっくりと外の世界と繋がっていく。
ここはラギ雪月近くの崖の中腹だ。極秘に作られた施設に、当然ながら親切に梯子なんてあるわけが無い。ゴツゴツとした岩肌をゆっくりと登っていく。自分はこんなに運動神経が良かっただろうか?疑問は尽きないが、今はただ、家に帰りたい、その一心で不安に蓋をする。
ただのお使いに随分と手間取ってしまった。きっと父さんも母さんも心配している。急がなければ。岩肌を登り、雪原を歩いて、やがて小さな村が見えてくる。ボクの生まれ育った村だ。囲炉裏の炭が尽きたのだろう。この激しい吹雪の中、懐かしい我が家の横で、炭を入れた籠を手にした女性と目が合った。母さんは信じられないモノを見たと言った感じで目を見開いた後、籠を放り投げてボクに駆け寄り、ぎゅっと強く抱き締めてくれた。
父さんと母さん、囲炉裏を囲んで会話といつも通りの米の少ない粥を食べ、薄っぺらい布団に川の字で潜り込んだ。食事の間、どうにも話がかみ合わなかったのは、きっとお互いに疲れていたからに違いない。明日からはきっと元通り。
―そう、何も変わらない日常が戻ってくると、信じていたんだ。
深夜、激しい物音で目を覚ます。何かがぶつかる音、そして悲鳴。異常事態を告げる音が家の外から響いている。軽く肩をゆすってみたが、父さんと母さんは目を覚まさない。そっと布団を抜け出し外へ出る。そこには地獄が広がっていた。
「あれは…ボク?ボクは、いったい…?」
一緒に遊んだ友達、いつも挨拶した近所のおじさん、畑仕事を手伝っていたお婆さん…馴染みの皆が次々と、自分と同じ姿をした何かに襲われていく。あちこちから悲鳴が響き、どこからか火の手も上がったようだ。雪に覆われた村が、朱く染まっていく。もう、この村はおしまいだ。せめて、父さんと母さんだけでも助けなければ。
「父さん!母さん!早く逃げ…」
その時になって初めて気付く。両の掌にまとわりつく生温い感触。父さんと母さんの胸元をジワジワと染める色と同じ、真っ赤な液体。
「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
続く