「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
現在と過去。ハクギンの悲鳴が混ざり合い、廃墟の村に響く。膝をつき、ゆっくりと雪面に伏せるハクギン。
「ふふ、ふはははっ、はぁっはっはっはぁ!!!」
「お前っ!ハクギンに何をしたんだ!」
「思い出させただけじゃよ。40年前に、この場所で、何があったのか。くくくっ」
顔面に手を当てて、天を仰ぎ堪えきれない嘲笑をあげる老人。
「おかしいねぇ。滑稽だねぇ。哀れだねぇ。40年前、友達はおろか、家族、隣人、生まれ育った村の住民。悉く殺したのは、一体誰だったのかなぁ?」
ひどく不気味な角度でもたげた頭。顔を覆うしわがれた枯れ木のような指の隙間から、ぎょろりとした瞳がハクギンに向けられる。
「何を…」
老人の話は全くハクトにとって要領を得ない。
「ハクギン。そうだなぁ。そんな名だったか?ワシの研究の礎となるかわり、褒美をやろう、大事なサンプルよ。そやつ、SB-03はたけやりへいをベースにワシが作り出したカラクリ人形のうちの一体だ」
「ハクギンが…カラクリ人形!?」
「SB-03は中でも初期の部類。長い長~い年月をかけて改良を繰り返してきておるからのぅ。ただのエルフと区別がつかなくて当然じゃて」
「そんな…」
「たけやりへいでは所詮、人らしい行動など望むべくもない。どうしたものかと思った折、ハクギンがワシの崖下の研究室近くに落ちてきた。足でも滑らせたのだろう。首の骨が折れて即死。信じるかどうかは勝手だが、断じてわしが手を下したわけではないぞ?」
「少年の死体を弄んだのか」
ただ敵と認識していた少年の身姿に隠された秘密を知り、会話に割って入ったダイダイックブレイブの言葉は怒りに満ちていた。
「ん~?んん?少し違う。…いや、だいぶ違うか?グレンやガートランドの連中に見つかるのは時期尚早だったのでな。死体は返してやったとも」
ぐるぐると円を描くように歩き回りながら老人は続ける。
「いけ好かない婆だが、ワシの仲間には魂を操れる者がおる。家に帰りたいと心残りに成仏できなかったハクギンとやらの魂を、からくり人形に宿したのじゃよ。少しは、らしく行動ができるようになるかと思ってなぁ。ところがじゃ。全く変わらん。拒絶反応が出んようにと寸分たがわぬ外観を用意したというのになぁ」
「貴様…死者の魂を…」
ダイダイックは怒りでもうそれ以上言葉が出ない。
「それがなんとな?一年も経ってから、急に目覚めた。そのまま必死に頑張って故郷までたどり着いてなぁ。涙ぐましいではないか」
声を震わせ、涙をぬぐう演技までして見せる老人。
「とはいえだ。困るのだよなぁ、勝手な事をされては。だからこの村には滅んでもらった。ちょうどハクギンの姿で量産も完了しておったのでな。実地試験も兼ねて、な」
「ひどい…どうしてそんなことができるんだよ…」
ハクトには老人の振る舞いが、徹頭徹尾何一つとして理解ができなかった。
「何で?何で?どうしてだってぇぇぇ???お前は馬ぁ鹿か小僧!?剣を手に入れたら振る、盾を手に入れたら構える、薬を手に入れたら飲む。同じこと!!作ってみたいから作る、試してみたいから試す、それだけじゃよ!結果など知った事か。可笑しな事を言っちゃあいけないよぉお!?」
老人はその小さい体のどこから絞り出しているのか、空気を震わせるが如く大きな声で、ハクトに歪んだ見識を叫ぶ。あまりの剣幕に、ハクトは腰を抜かしてへたり込んだ。初めて知るおぞましい存在に、体の震えを抑えることができない。
「さて、そろそろ再起動が完了する頃か。SB-03、邪装展開せよ」
老人の声に、ゆっくりとハクギンが立ち上がる。
「ハクギン!大丈夫!?」
雪面に座り込んだまま、呼びかけるハクト。しかし、ハクトに向き直ったハクギンの瞳からは、感情が消えていた。
「邪・装・展・開」
淡々とした呟きとともに、もはやダイダイックブレイブには随分と見慣れた姿へと変貌を遂げるハクギン。エルフの時には消えていたが、未だユナティとアスカのギガブレイク・クロスにより付けられた胸の傷は修復しきれていなかったらしく、スーツに未だわずかな傷痕が残っている。
「そんな…ハクギン…」
友達の異様な姿に力なく膝をつくハクト。自分を見つめる友の様子を欠片も意に介さず、偽ドルブレイブは自身の邪装具たる大鎌を顕現させた。
続く